今回は、メンデルスゾーンのひとつめの弦楽五重奏曲をご紹介します。
メンデルスゾーンだと、弦楽四重奏・八重奏は有名ですが、
「弦楽五重奏曲なんてあったの!?」と思われる方もいるかもしれません。
その実、私も演奏するまで知りませんでした笑
彼の弦楽五重奏は2曲ありますが、ともに隠れた名曲です。
この第1番は彼が若いときに作られました。
楽しさと穏やかさ、両方が楽しめる良い曲です。
ただし、裏には「親友の死」という暗いテーマもあります。
この記事では、バイオリン歴35年以上・コンクール歴ありの筆者が、弦楽五重奏曲第1番の特徴を紹介します。
簡単なまとめ
- 18歳で作られた
- みずみずしいが、すでに成熟した技法
- 親友との楽しい想い出…そして彼へのレクイエム
- 初めてのチームにもおすすめ
メンデルスゾーンの人物像
メンデルスゾーンは、1809~1847年に活躍しました。
とても短命の作曲家です。
時代としては、古典派の終わり~初期ロマン派に位置します。
音楽の基礎・形式を重視しつつ、より自由な表現を目指した時代です。
メンデルスゾーンはとても早熟、かつ、恵まれた音楽環境のもとで育ちました。
母親はプロ並みのピアニストで、メンデルスゾーンが4歳のときから手ほどきをしました。
彼は、長い時には8時間もピアノを弾いていたそうです。
さらに加えてバイオリンなどの器楽も習熟しました。
また、作曲も習っており、なんと11歳で難しい対位法に取り組んでいたそうです。
両親の熱心な教育のかいもあり、彼は勉学・音楽の両面でめきめきと力をつけました。
とくに音楽に関しては母親も目を見張る才能があり、周囲からは「神童」「第二のモーツァルト」と呼ばれていたそうです。
弦楽五重奏曲第1番の作曲背景
18歳の充実期に作られた作品
この曲が作曲されたのは18歳。弦楽八重奏曲(メンオク)の直後です。
この頃のメンデルスゾーンは、心身ともに成長期にありました。
彼は父親の伝手で、有名な文豪…ゲーテと親しくなり、啓蒙を受けることができました。
また、ベルリン大学の聴講生となり、美学、地理、歴史などを学びました。
その過程で学者とも親しくなったのです。
音楽面でも、1年だけで弦楽交響曲を6、コンチェルトを5、オペラ1作、合唱曲6-7個を作曲しました。
人の2倍、3倍のスピードで知識を吸収していたのです。
こうした経験のため、本曲は10代のみずみずしさを持ちながら、とても成熟した作品になっています。
親友エドゥアルト・リーツと彼の死
この弦楽五重奏曲は、もともとエドゥアルト・リーツという親友に演奏してもらうために作られました。
メンデルスゾーンは、幼少期からリーツと親しい関係にありました。
リーツは彼にとってバイオリンの師であり、また、お互いに音楽の理解者だったのです。
しかし、メンデルスゾーンはこの曲の楽章構成に満足せず、しばらく世に出しませんでした。
そして数年後…リーツは急死しました。
メンデルスゾーンは彼の死を悼んで、「弦楽五重奏のためのアンダンテ」を作曲しました。
そしてこのアンダンテを、すでに作曲した弦楽五重奏曲の第2楽章とし、曲として完成させたのです。
本曲は、リーツとの楽しい想い出と、彼へのレクイエムが詰まった曲なのです。
曲の特徴
温かな光に包まれているような曲です。
10代の初期作品なのに、躍動と落ち着きのバランスが取れています。
また、古典派のスタンダードな雰囲気もまだ残っており、モーツァルトに似た親しみやすさを感じます。
豊かで前向きな気持ちになりたい人にピッタリの曲です!
第1楽章
↑古い録音のため聴きづらいかもしれません!(以下同様)
優しさにあふれた楽章です。
イ長調(A-dur)…柔らかい調性で作られており、すてきな和音に乗ってメロディーが紡がれます。
第一主題が終わるとほどなく、音楽に動きが出始め、遊び始めるのです。
まるで「こんなメロディーを思いついたよ!どう?」と問いかけているようです。
第2楽章
亡き親友のために作った楽章です。
全員のユニゾンで、祈るように始まります。
もともとは違う構想でしたが、リーツの死によりこのアンダンテを2楽章に入れました。
第3楽章
メンデルスゾーンの十八番ともいえる、スケルツォです。
弦楽八重奏曲(メンオク)の3楽章ととても似ています。近い時期に作られたからかもしれません。
夜の山に魔女、妖怪、妖精たちが集まって踊るようです。
第4楽章
明るく、跳ねるような終楽章です。
メンデルスゾーンとリーツのふたりが楽しく演奏している姿が浮かぶようです。
バイオリン弾きの視点
※アマチュアの人が休日や部活動で弾くことを想定しています。
初めて組むメンバー同士でもやりやすいと思います!
技術難度は、前半やや易しめ、後半はやや技巧的。
1,2楽章はひじょうに弾きやすい。一方で3,4楽章は小回りを求められます。
バッハやモーツァルトよりは忙しいですが、のちの中期作品や交響曲よりは穏やかです。
アンサンブルもそんなに難しくありませんが、
強いていえば3,4楽章が滑りやすく、拍を感じることが大切です。
また、イ長調(シャープ3つ)は音程が厄介なので、1楽章を丁寧に合わせることをおすすめします。
総じて、この人初めて一緒に弾くなあ…という場合でもやりやすいと思います!
ちなみに、メンデルスゾーンの五重奏曲はもう一作品あります(第2番)が、
あちらはけっこう難しく、曲調も劇的です。
優雅に・余裕をもって弾きたいなら、こちらの第1番がいいかもしれませんね。
まとめ
- 18歳という若さで作られた
- みずみずしいが、すでに成熟した技法
- 親友との楽しい想い出…そして彼へのレクイエム
- 初めてのチームにもおすすめ
メンデルスゾーンの弦楽五重奏曲第1番を紹介しました。
楽しさと穏やかさ、両方が楽しめる名曲です。
機会があればぜひトライしてみてください!