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【悲劇の実話】ベートーヴェン:「エグモント」序曲 解説

この記事では、バイオリン歴35年以上の筆者が、ベートーヴェン「エグモント」序曲を紹介します。

この曲は、劇物語の序曲です。
中世の実在人物「エグモント伯」の悲劇をベースとしています。

そのため…端正ながらも、激動のストーリーが味わえる一曲。
8分間の中に物語が凝縮され、ベートーヴェンの活き活きした書法を楽しめます。

 
筆者
ベートーヴェンの序曲の中でも、かなり完成度が高い一曲です!

この記事を読むと、エグモントのバックストーリーや各部の内容がわかります。

簡単なまとめ

  • ゲーテの物語をもとに作られた舞台音楽
  • スペインの圧政に立ち向かった、勇気と悲劇の物語
  • 心の底で燃ゆる感情の曲!

ベートーヴェンの人物像

人物像…18世紀末の作曲家

ベートーヴェンは、1770~1827年に活躍しました。
古典派の技術をもとに、より革命的で自由なロマン派を切り拓いた作曲家です。

性格は気まぐれでかんしゃく持ち。
周囲からは気難しいとも言われたとか。
生活スタイルも音楽に全振りだったそうです。

作風…難聴をきっかけにより革新的になった

ベートーヴェンの作風は、出身地のドイツらしくはっきりとした発音、そして堅牢な構築です。

さらに、彼は難聴に苦しんだことをきっかけに、作風が進化しました。

 
筆者
ベートーヴェンが難聴だったのは有名な話ですね!
彼は、1802年に「ハイリゲンシュタットの遺書」という決意文を書いてから、より音楽に真摯に向き合うようになりました。
以後、彼の音楽はより革新的なものが多くなったのです。
今回のエグモント序曲も、1810年…ハイリゲンシュタットの遺書から数年後の作品です。

作曲背景

ゲーテの物語をもとにした劇音楽

エグモントは、ゲーテ作の悲劇がもととなっています。

1809-10年、ベートーヴェンの周囲では、ナポレオン戦争からの復興が進んでいました。
復興の一環として、劇場運営を立て直すために、ゲーテとシラーの作品による舞台興行が企画されたのです。
ベートーヴェンはこの舞台の付随音楽を依頼されました。

さて、ベートーヴェンは最初シラーの付曲を望んでいました。
しかし、より難しいとされるゲーテを担当することになったのです。
しぶしぶ承諾したベートーヴェン。
だが、エグモント伯の悲劇に共感し、徐々に作曲意欲が高まっていったようです。

筆者
1809年の秋にはすでに本曲のスケッチが見られます!

こうしてベートーヴェンは、序曲含め全10曲の付随音楽を作りました。
現在、この劇はほとんど上演されません。
一方、劇のあらすじを凝縮した序曲は、現在でも単独の曲として演奏されているのです。

エグモントのあらすじ

この物語は、実話です。

舞台は、オランダ独立戦争
エグモント伯ラモラールも、この戦争の初期に活躍した実在の人物です。

1567年。スペイン統治領ネーデルランデ。
ここでは、カルヴァン派(宗教)の民衆が、それを認めないスペインの圧政に苦しんでいました。

エグモントは、ネーデルランデの独立を目指して軍功を重ねていました。
そして彼は民衆の苦しみを知り、祖国のために立ち上がります。
危険を承知でスペイン側の総督フェルナンドの元に行き、説得を試みるのです。
しかし、エグモントの説得は失敗。
そして、反抗する彼らは捕らえられてしまい、国家反逆罪で斬首刑の宣告を受けます。
彼は失意のうちに処刑されてしまうのです。

エグモントの死後。
彼の同志であるオラニエ公を中心に、ネーデルランデ諸州がスペインに反乱を起こします。

エグモントらの意志を引き継ぎ、ついにオランダ独立が叶うのです。

さて、ゲーテの『エグモント』では、史実を忠実に踏襲しつつ、エグモントの恋人クレールヒェンを登場させています。
死刑執行の時がきて断頭台に拘束されるエグモント。
その眼前にクレールヒェンの幻影が出現し、エグモントの勇気と正義を誉め称え、その行動を祝福します。

 
筆者
悲劇だけでなく、愛による死の救済もテーマとしているのです!

曲の特徴

大きく3パートに分けられます。

  • 序奏…抑圧
  • 主部…抵抗、エグモントの説得
  • コーダ…死後の救済

第一部 序奏…抑圧

↑古い音源なので聴きづらいかもしれません!(以下同様)

抑圧エグモントや民衆の叫びを表現しています。
冒頭のリズムは、スペインに由来のある「サラバンド」から来ています。
舞踏会で使われるのですが、この曲では重々しい拍子感が特徴です。

筆者
ひじょうに鬱屈とした雰囲気です…!

第二部 主部…抑圧への対抗

抑圧への恐怖と対抗勇気を表しています。

左側の譜例は、新総督とエグモントのやり取りを暗示しています。
バイオリンの高まる旋律は、エグモントによる説得。
そして、チェロバスはまるで総督の「だめだ」を表すかのようですね。

そこからは長調に転調。
民衆の怒り。エグモントがこれを代表します。

しかし、2度の対決後、彼は処刑されてしまいます。

サラバンドのリズムが何度も奏でられた末、
CからGの強烈な下降音型が、斬首の描写であると言われています。
(この音源はめっちゃあっさりしてるな…(;^_^)

 
筆者
斬首後のコラールは、まるで死後の天からの声のようです!

第三部 コーダ…死後の救済

死後の精神的勝利救済をうたっています。

クレールヒェンの幻影が出現し、エグモントの勇気と正義を祝福します。
そして、バイオリンのちいさな動機が徐々に力を増し…
英雄を讃えるかのようなクライマックスを築き上げます。

 
筆者
意志を継いだオラニエ公らによる、ネーデルランデの独立も暗示するかのようです!

バイオリン弾きの視点

アマチュアの人が休日や部活動で弾くことを想定しています。

ベートーヴェンの中では、そこまで難しくありません!
ただ、コーダを除いて中低音でのfが多く、力みやすいです。
フォームが乱れないように気を付けたいですね。

筆者
圧政だからといって力で弾かないように注意したいです…!

なお、演奏者としても、内から燃えるような熱を味わえます。
鬱屈とした雰囲気、圧政をよく表している曲です。
弾いていて感情移入しやすいと思います!

まとめ

  • ゲーテの物語をもとに作られた舞台音楽
  • スペインの圧政に立ち向かった、勇気と悲劇の物語
  • 心の底で燃ゆる感情の曲!

エグモントは、ベートーヴェンの序曲の中でもひじょうに完成度が高いです。

暴君の圧政。英雄が捕らえられ弾圧を受け、救済(救出)される。そこに女性の愛が絡む…
奇しくも、ベートーヴェン唯一のオペラ「フィデリオ」と共通しています。

ほかの序曲と合わせてぜひ楽しんでください!