クラシックの演奏会では、男性は燕尾服や礼服を着用しています。
サロンコンサートだと、女性がロングドレスを着用している姿も見かけます。
しかし、これらの服装は必ずしも演奏者にとって弾きやすいものではありません。
最近は黒シャツ黒ズボン・黒ブラウスなどでの演奏も増えてきました。
今回は、クラシックの正装はなにが由来なのか、演奏者にとって弾きやすい服装はなんなのか、筆者の考えを書きます。
簡単なまとめ
- 燕尾服が正装なのは、クラシックが貴族のためのものだったから
- 現代では、統一性があれば正装でなくてもよい
- 海外では、黒シャツ黒ズボンを正装とする動きもある
- バイオリン弾きとしては「肩回りの伸縮性」「分厚くないもの」を優先したい
クラシック音楽の衣装の歴史
燕尾服が正装なのは、クラシックが貴族のためのものだったから
古典派以前の時代では、クラシックは神や王、貴族のためのものでした。
音楽家は宮廷に仕え、サロンで演奏していたのです。
ゆえに貴族の前では「正装」を求められていました。
こんにちの燕尾服は、古典派時代の文化を尊重し、楽曲にも敬意を払ったゆえの正装なのです。
(現在は、燕尾服ではなくブラックスーツなどの礼服で代用されることが多いです。燕尾服は高いですしね)
では、女性は?というと、当時女性の音楽家はほぼいませんでした。
なので、オーケストラでは黒ブラウス・白ブラウスが一般的です。
もっとも、ソロリサイタルや室内楽では、華やかなロングドレスが着られることもありますね。
このルーツは、女性貴族も趣味としてサロンで演奏することがあったから、と言われています。
現代ではオールブラックなどの軽装化が進んでいる
近代以降は、礼服に限らず、「統一性があればよい」とされるようになりました。
代表的なのが、黒シャツ黒ズボン、女性黒ブラウスです。
日本ではカジュアル寄りとも言われますが、海外はむしろ、この“All Black”の出番が多いのです。
フィラデルフィア管弦楽団などいくつかのオケは、このオールブラックを正式な衣装とし、昔の正装を廃止しています。
オールブラックを正式な衣装としたのにはいくつか理由があるそうです。
- クラシックは、ロマン派以降すでに貴族のためのものではなくなったから
- 黒は権威性などのプラスイメージがあるから
- 黒はほかの色と比べて、色味を統一しやすいから
なお、オールブラックの場合はジャケットなしも多々認められます。
日本でもオールブラック文化はどんどん流行っており、男性はジャケなしノータイのことが多いです。
正装の文化は残りつつ、略装が一般的になると思われる
筆者も、オールブラックをはじめとした略装は大賛成です。
今日のクラシック音楽は幅広い人に受け入れられています。というか、そうでないとやっていけない時代です。
なので衣装も、より受け入れやすいものに変わっていくのが当然でしょう。
最近では、オールブラック+ポケットチーフやネクタイなどでワンポイントを出している楽団も見かけます。
一方で、「しっかりした演奏会だから正装がかっこいい!」という思いもわかります。
こだわりの演奏会を催すときは正装、というメリハリも大事かもしれませんね。
演奏者として弾きやすい服装
実は正装は超弾きづらい
ここまで正装略装どちらもアリという考えを示してきましたが…
演奏しやすさを取るなら、圧倒的に略装。というか黒シャツ黒ズボン一択です(笑)
というのも、ジャケットや礼服用のワイシャツは、弦楽器奏者にとってかなり不向きなのです。
理由は次のとおり。
- 肩が広がらない
白ワイシャツは素材が限られるゆえ、肩甲骨周りの伸縮性に欠けます。
ジャケットもボウイングに邪魔です。 - 重い
腕を常に上げてなければならないので、ジャケットは苦痛です。
礼服着てブルックナーなんて演奏した日には、体力が尽きてしまいます(笑) - 胸板が厚くなる
礼服なんて着ると、もはやジャケットが肩当て代わりになってしまいます。
普段の演奏感覚とあまりに違います。
これらの理由から、弦楽器には「伸縮性の高い黒シャツ」と「黒ズボン」が一番ありがたいのです。
ソロリサイタル・室内楽のコンサートでは、こうした略装の人が多いはずです。
これは、上記のような弾き手の意見を反映しやすいからです(笑)
管打楽器や女性も、基本的な考え方は同じだと思います。
(ただ、女性のドレスは肩回りがすっきりしているものが多いため、あまり弦楽器の演奏には負担にならないようですね)
発表会でのおすすめの服装
楽器を始めて数年以内の人は、「発表会で何を着ればいいんだろう」と迷うかもしれませんが…
結論「ノージャケットかつ、肩回りを動かしやすい服装」をおすすめします。
最近では、伸縮性の高いシャツやブラウスもたくさん売られています。
特に黒シャツ(黒ブラウス)はおすすめです!
素材の違いが目で分かりづらく、万が一シワがあっても目立たないからです。
まとめ
- 燕尾服が正装なのは、クラシックが貴族のためのものだったから
- 現代では、統一性があれば正装でなくてもよい
- 海外では、黒シャツ黒ズボンを正装とする動きもある
- バイオリン弾きとしては「肩回りの伸縮性」「分厚くないもの」を優先したい
クラシック音楽の衣装について紹介しました。
昔ながらの正装も、今の略装も、それぞれいいところがありますよね。
一方、演奏者としては、ぜひ後悔のないように衣装を選んでほしいと思います。
衣装のせいで弾きづらくなったら元も子もありませんからね。
正装指定でも、黒黒でも、なるべく動きやすい素材や形のものを選びましょう!