- エルガーの作品ってどんな特徴があるんだろう?
- 入学式や卒業式でよく流れる、あの曲の成り立ちを知りたい!
この記事では、バイオリン歴35年以上の筆者が、エルガー「威風堂々」を紹介します。
この曲の中間部は、「希望と栄光の国」-Land of hope and glory- の別題があります。
イギリスで最も有名な管弦楽曲で、日本でも入学式・卒業式でよく演奏されます。
ちなみに…威風堂々は筆者が人生で初めて弾いたオケ曲です。
(ジュニアオケが盛んな国で育ちました)
今回は、この曲のバックストーリーや、式典で取り上げられている理由を紹介します。
※威風堂々には全6番までありますが、今回解説するのはもっとも有名な第1番です。
簡単なまとめ
- プロムナードコンサートで史上初の2回アンコールを受けた
- イギリス国王の依頼で、戴冠式へと転用された
- 世界中…アメリカの卒業式でも演奏されている
- 勇ましい行進曲と、壮麗なトリオによる二部構成
エルガーの人物像
エルガーは、1857-1934年に活躍しました。
実はかなり最近の作曲家です。
時代でいうと、後期ロマン派から近代音楽へと発展を遂げた頃です。
イギリス出身
エルガーは、イギリスのウースター市出身です。
ちなみにウスターソース発祥の地です。
エルガーの父はバイオリニストで、さらにピアノ・オルガンも弾きました。
父の影響でエルガーも音楽に興味を持ちましたが、作曲や音楽理論といった音楽教育は受けていませんでした。
その代わり、父の楽器店、大聖堂のオルガン、町の音楽といったシーンで、たくさんの音楽を吸収しました。
(幸いにも、ウースターは合唱曲が盛んな場所でした)
これがエルガーの色とりどりの音色につながっています。
まるでウスターソースのようですね。
作曲家としては苦労が多かった
エルガーは、16歳から父の助手を務めたほか、バイオリンの演奏・指導、指揮などで生計を立てました。
しかし、本人は作曲のほうに興味があり、20代半ばから作曲家として本腰を入れました。
彼の前期作品としては、「愛の挨拶」「弦楽セレナード」などのロマンティックなものが有名です。
ですが…30代後半までは出版依頼も受け入れられず、ひじょうに苦しい経済状況でした。
それでも、前述の曲や、合唱曲などを中心に徐々に人気が出始めます。
エルガーの地位を一気に押し上げたのは、1899年の「エニグマ変奏曲」でした。
エニグマ変奏曲とは、彼の思い浮かべた12人の友人のキャラクターがモチーフになった曲です。
この曲が大ヒットし、エルガーは40代でようやく世界的に有名になったのです。
威風堂々は、これらの大変な苦労のあとに書かれた曲です。
「威風堂々」のバックストーリー
華々しい行進曲の初演
威風堂々は、1901年…44歳の作品です。
もともとは式典用ではなく、通常の管弦楽曲(行進曲)として作られました。
エニグマ変奏曲で成功した彼は、「皆を打ちのめすような旋律を思いついたんだ」と言いながら、この曲の有名なトリオを作りました。
エルガーの友人でもあったロードウォルドと、リヴァプールの管弦楽団に捧げられました。
そして1901年に、ロンドンの「プロムナード・コンサート」という有名な定期演奏会で、第1番の行進曲が初演されたのです。
このプロムナード・コンサートで、威風堂々は史上初の2度のアンコールという栄誉を受けた、唯一の曲となりました。
エドワード7世の戴冠式に転用
威風堂々のあと、エルガーはイギリス国王への「戴冠式頌歌」の作曲を依頼されました。
この頌歌の作曲中に、国王エドワード7世本人が「威風堂々のトリオに歌詞をつけてはどうだろう」と提案したのです。
エルガーはこの提案を受け入れ、トリオに歌詞をつけて、頌歌の最終曲に転用しました。
これが、有名な「希望と栄光の国」 – “Land of hope and groly” の歌詞の元となったのです。
「希望と栄光の国」の独立出版
「希望と栄光の国」に可能性を感じ取った楽譜出版社は、エルガー監修のもと、この曲を独立した楽曲として出版しました。
これが絶大な人気を誇り、瞬く間に世界で有名となりました。
現在でも、この曲はイギリスで第2の国歌として…
また、アメリカでも卒業行進曲として知られています。
「希望と栄光の国」がきっかけで、エルガーは国王からナイトの称号を受け取り、「イギリスのエルガー」の名を轟かせました。
そして、後の「交響曲第1番」などの作曲につながっていくのです。
曲の特徴
この曲の正式なタイトルは “Pomp and Circumstance” です。
“pomp” は「壮麗、華麗」、”circumstance” は「儀式張った、物々しい」という意味合いです。
この曲の雰囲気から名付けられたかと思われます。
短い序奏-主部と、トリオの2つから成る曲です。
序奏~主部
↑筆者が子供の時の音源です…(これしかなかったけど恥ずかしい…許可は貰っています…)
行進曲らしく、勇ましく歩むようなパートです。
この序奏、実は面白くて…
ニ長調とは関係性の遠い変ホ長調から始まります。
また、旋律が上昇しているのに対し、低音が下降しています。
このため、勇ましいとは言いながらも…奥深さ、一種の気品を内包しています。
華やかなシーンだけではなく戦いのカオスも表現しているのか、イギリス特有の霧がかった雰囲気なのか。それとも多様さを表しているのか…
人によって捉えかたが違う音楽だと思います!
トリオ(中間部)
イギリスで第二の国歌ともいわれる有名な旋律です。
荘厳で、誇りをもったエルガーの情念が目に浮かぶようですね。
なお、原曲に歌はありません。
(後にこのトリオが「希望と栄光の国」として転用されました)
これらの主部とトリオが2回繰り返されると、コーダに移り、華々しく終わります。
バイオリン弾きの視点
※アマチュアの人が休日や部活動で弾くことを想定しています。
演奏者としても、堂々とした雰囲気が味わえる名曲です!
そして、彼の音楽のなかでは、わりとシンプルでとっつきやすいです。
オーケストラ初めての人でも頑張れば弾けます。
オーケストラ入門者として弾くなら、旋律線の多い1stをぜひおすすめします。
ただし5-7ポジくらいの高音が(一瞬ですが)出てくるので…絶対ムリ!という人は2ndですね。
2ndは譜面上は簡単です。
ちなみに…実は譜面にsulG指定があります。(「指定解除まで、すべての音をG線で弾く」という意味)
ただ、威風堂々のsulGに関しては、プロオケや超うまいアマオケでも無視されることが多いです。
sulGにしたとてさほど聴き栄えが変わらないからです。あとめっちゃ難しいし…(笑)
ポルタメンテ(指ずらしの音)が入るのも微妙!
まとめ
- プロムナードコンサートで史上初の2回アンコールを受けた
- イギリス国王の依頼で、戴冠式へと転用された
- 世界中…アメリカの卒業式でも演奏されている
- 勇ましい行進曲と、壮麗なトリオによる二部構成
行進曲「威風堂々」第1番を紹介しました。
最後に…実はこの曲、エルガ-自身が指揮・録音した音源が残っています。
しかも、BBC交響楽団とロンドン交響楽団の2種類があります。
どちらも全体的にすっきりした演奏です。こういう演奏、私大好きです。
一方、異なる部分も多く、ritのかけ方が違ったり、後半の主部がエルガー自身で短くされていたりします。
興味があればぜひ聴いてみてください。
また、エルガーには他にも素敵な曲がたくさんあります。ぜひトライしてください!