▶トリオ「希望と栄光の国」
入学式や卒業式、思わず背筋が伸びるあの行進曲——
エルガー《威風堂々》第1番は、あらゆる式典で演奏される定番の曲です。
しかしこの曲、最初から式典のために書かれたわけではありません。
はじめは普通の管弦楽曲として生まれましたが、国王の後押しを受けて、世界中の晴れ舞台を彩る音楽へと羽ばたいたのです。
この記事では、《威風堂々》誕生の物語と聴きどころ、そしておすすめの名盤を、バイオリン歴35年の演奏者の目線から分かりやすく解説します。
- 威風堂々がどのように生まれ、世界に広がったのか
- 「希望と栄光の国」の歌詞が付けられた理由
- 威風堂々の聴きどころと、おすすめ名盤3選
威風堂々はどのように作られた?
もともとは「演奏会用」の行進曲だった
《威風堂々》は、式典のためではなく、演奏会用の管弦楽曲として作られました。
1901年、イギリスの作曲家:エドワード・エルガーは、「皆を打ちのめすような旋律を思いついた」と語り、有名な中間部(トリオ)の旋律を書き留めます。彼はこの旋律を軸に、一気に行進曲を書き上げました。
初演は1901年10月、イギリスのリヴァプールで行われ、大成功を収めます。

そのわずか2日後、ロンドンの名物演奏会「プロムナード・コンサート」で演奏されると、聴衆は総立ちに。プロムス史上唯一となる「2回アンコール」が巻き起こり、《威風堂々》の名は一夜にして知れ渡りました。
国王により「希望と栄光の国」の歌とともに広まった
演奏会での大成功の後、エルガーは国王の戴冠式を祝う音楽、「戴冠式頌歌」の作曲を依頼されます。
そのきっかけの一つが、国王自身の言葉でした。エドワード7世は《威風堂々》のトリオを聴き、「このトリオに歌をつけてはどうか」と提案したと伝えられています。

エルガーは詩人ベンソンの協力を得て、トリオの旋律を頌歌の終曲に組み込みました。こうして生まれたのが、「希望と栄光の国(Land of Hope and Glory)」です。
戴冠式は国王の急病でいったん延期となりますが、この歌は独立した歌曲として出版され、大評判に。「イギリス第二の国歌」とも呼ばれるほど愛されるようになりました。
こうして《威風堂々》は、式典・祝賀・行進を象徴する音楽として世界中に定着していったのです。
エルガーはどんな人だった?
独学から「イギリス的な響き」を築いた
エドワード・エルガー(1857-1934)は、イギリス中部ウースター出身の作曲家です。時代でいえば、後期ロマン派から近代への過渡期に活躍しました。
父は楽器店を営む音楽家でしたが、意外なことに、エルガー自身は音楽院で体系的な教育を受けていません。作曲も和声も、楽器店・教会・町の音楽文化の中で、ほぼ独学で身につけました。
この生い立ちが、ドイツやフランスの様式とはひと味違う、内省的で色彩感に富んだ「イギリスらしい響き」を彼の音楽に与えています。
40代で花開いた遅咲きの作曲家
エルガーの作曲家人生は、決して順風満帆ではありませんでした。
16歳からは父の仕事を手伝いながら、バイオリンの演奏や指導で生計を立てる日々。20代後半から本格的に作曲へ力を注ぎますが、30代後半まで作品はなかなか評価されず、経済的にも苦しい時代が続きます。
転機は1899年、友人たちの人柄を音楽で描いた《エニグマ変奏曲》の大成功です。エルガーは40代にして一気に世界的作曲家の仲間入りを果たしました。
《威風堂々》は、その直後に生まれた作品です。単なる勇ましさに留まらない誇り・達観・気品は、長い苦労を知る彼だからこそ書けたものといえるでしょう。
エルガー《威風堂々》第1番の聴きどころ
タイトル「威風堂々」の意味とは?
原題は“Pomp and Circumstance”。シェイクスピアの戯曲『オセロ』に登場する言葉から取られています。
“pomp”は「壮麗・華やかさ」、”circumstance”は「儀式ばった物々しさ」という意味合い。直訳すれば「壮麗と儀式」といったところです。
曲は力強い主部と、歌うようなトリオ(中間部)の2つの部分からできています。それぞれの聴きどころを見ていきましょう。
主部―勇ましさだけでなく、気品のある行進曲
▶主部の行進曲
《威風堂々》は、いかにも行進曲らしい力強いリズムで幕を開けます。一歩ずつ足並みをそろえ、胸を張って進んでいくような音楽です。
ただし、この主部は単に勇ましいだけではありません。華やかな響きの奥に、どこか落ち着きと奥深さが感じられます。
トリオ―「希望と栄光の国」の旋律
▶トリオ「希望と栄光の国」
この曲最大の聴きどころが、途中で雰囲気ががらりと変わる中間部(トリオ)です。
行進の勇ましさがふっと静まり、ゆったりと歌うような旋律が広がります。どこか誇らしく、胸の奥が温かくなるような響き。この旋律こそ、後に歌詞を得て「希望と栄光の国」となったメロディです。
原曲の《威風堂々》に歌はありません。それでも、この部分に差しかかると歌が聴こえてくるように感じるほど、旋律の輪郭がはっきりしています。

ここから主部が戻ってきて、最後はこのトリオが全楽器で堂々と再現されます。この高揚感は、ぜひフル演奏で味わってみてください。
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バイオリン弾きの視点
《威風堂々》は、オーケストラ初心者でも取り組みやすい行進曲です。
リズムが明確でテンポも安定しており、「まずは堂々と弾く」という基本に集中できます。
パート選びの目安として・・・
1stバイオリンは旋律を多く担当でき、あの有名な中間部を弾く喜びがあります。
一方の2ndは音域が安定しており、技術的に無理なく弾くことができます。
なお、譜面には一部sul G(G線だけで弾く指定)がありますが、初心者が無理にこだわる必要はありません。音程とリズムを優先したほうが、結果として音楽はよくまとまります。
この曲の誇りと気品を感じながら弾けると、とても味わい深い演奏になると思います!
まとめ|《威風堂々》はエルガーの信念が詰まった曲!
- 演奏会用として生まれ、ロンドン初演で史上初の2回アンコールを受けた
- 国王の提案で中間部が「希望と栄光の国」となり、世界中の式典へ広まった
- 遅咲きの作曲家エルガーの人生が刻まれた行進曲
《威風堂々》は、ただ勇ましいだけの行進曲ではありません。長い苦労の末に成功をつかんだエルガーの自信・信念が詰まった一曲です。
式典でこの曲に出会ったら、ぜひその背景にも思いを巡らせてみてください。きっと聴こえ方が少し変わるはずです。
最後に、この曲の魅力を存分に味わえるおすすめの録音を3枚紹介します。
エルガー《威風堂々》のおすすめ名盤3選
作曲家の自演録音!エルガー指揮 ロンドン交響楽団
1931年、作曲者本人の指揮による歴史的録音です。
録音は古いものの、作曲者自身の答えが聴ける貴重な一枚です!
端正な名盤|ボールト指揮 ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団
エルガーと親交のあった指揮者による、本家の系譜の演奏です。
誇張のない端正なテンポ。迷ったらまずこの1枚という基準盤です。
温かいトリオを楽しむ|バルビローリ指揮 フィルハーモニア管弦楽団
歌心にあふれた、温かみのある演奏です。
トリオの旋律を楽しみたい人には、一番のおすすめです!
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