- この曲、なんだか懐かしいけど…どこから来るものだろう?
- “ボヘミア的”って具体的にどういうこと?
ドヴォルザークの交響曲第8番には、“心を呼び起こすような懐かしさ”がありますよね。
とても親しみやすくて、弾いていても自然と感情が乗る——。
その裏には、彼にしかできない感性・ストーリーが潜んでいるのです。
この曲は、ドヴォルザークが自然豊かな土地で、自身のルーツを反映させながら書き上げました。
郷愁と明るさが共存する名作です。
この記事では、バイオリン歴35年以上・ビオラ経験もある筆者が、
この曲の背景と魅力を演奏者目線から解説します。
各楽章の特徴や“ドヴォルザークらしさ”のヒントを知ることで、きっと演奏や鑑賞がもっと楽しくなります!
- “ボヘミア”って結局どんな音楽?
- 交響曲第8番の聴きどころと、各楽章の面白さ
- バイオリン弾きの楽しさ – 1stも2ndも”おいしい”!
この曲は、どこから生まれた?
美しき別荘地ヴィソカーで書かれた

本曲が作られたのは、1889年。
ドヴォルザークが48歳のときです。
彼には十分な実力がありましたが、デビューは遅く、
ようやく40代になって世間に認められるようになりました。
この時期、彼は経済的なゆとりを手にし、
故郷ボヘミアの「ヴィソカー」という村に別荘を構えます。
ヴィソカーは、小高い丘と森に囲まれた美しい場所。
鳥のさえずり、風の音、草木の香り……
そんな自然に囲まれた空間で、彼は作曲に没頭しました。

この第8番には、そののびやかな空気感がしっかりと息づいています。
冒頭こそ短調で始まりますが、すぐに明るく開けていきます。
郷愁と晴れやかさが交錯する、開放的な交響曲です。
ちなみに、この曲には「イギリス」という副題がつくこともあります。
ですが、これはイギリスの出版社に送ったことに由来するもので、
曲の内容とは関係ありません。
むしろこの作品は、ボヘミアの自然と彼の心情が結びついた、内面的な音楽といえるでしょう。
「ボヘミア的」とは、民族音楽と西洋の融合体

ドヴォルザークの音楽には、よく
「ボヘミア的な響き」「民族色がある」といった表現が使われます。
でも、それって具体的にどんなものなのでしょう?
ボヘミアとは、現在のチェコの西部にあたる、彼の生まれ故郷。
歴史的には、スラブ系やゲルマン系など、さまざまな民族が入り交じって暮らしてきました。
民族音楽も盛んで、古くから豊かな文化が根づいています。
一方で、ボヘミアは西欧諸国にも隣接しており、
ドイツやオーストリアの音楽とも深く関わってきました。
吟遊詩人を通じて、互いの音楽が行き来するような交流もあったようです。
その結果、ボヘミアの音楽には——
民族音楽の情熱と、西欧的な構築美が同居している。
そんな、ユニークな響きが育まれました。
ドヴォルザークは、そうした伝統の中で育ち、
交響曲や弦楽四重奏、歌曲など、さまざまな作品に
自分のルーツである“ボヘミアらしさ”を織り込んでいったのです。
各楽章のポイント
第1楽章|同音反復、ロマン派の息の長さ

↑古い録音のため聴きづらいかもしれません!(以下同様)
第1楽章は、ト短調で静かに始まります。
チェロと木管が、同じ音を繰り返すだけの導入。
たったそれだけなのに、どこか郷愁を誘う空気が漂います。
この「同音反復」は、ドヴォルザークの得意技。
冒頭では“レ”、続く7〜8小節目では“シ”だけが続きます。
にもかかわらず、旋律のように聞こえ、感情や風景が動き出します。
背景が“にじむ”ように変化しています!
そして雰囲気を一気に変えるのが、ト長調のフルートによる主題。
ロマン派らしい、息の長い旋律で歌い上げます。
この主題が、曲全体をやさしく包み込み、
希望や開放感へと導いていきます。
第2楽章|自然へのまなざし

ヴィソカーの情景がわっと頭に広がる、雄大な旋律です。
都会的ではなく、土の香りがするような温かさ。
この楽章では、ところどころに“自然の風景”を思わせる表現があります。
たとえば、小鳥のさえずるようなパッセージ。
弦がささやくように奏でる伴奏。
そして、コンサートマスターによる詩人のようなソロ。
ドヴォルザークは、自然をこよなく愛した作曲家。
この第2楽章には、そんな彼の穏やかなまなざしが、
そのまま音になって流れているようです。
第3楽章|スラブ舞曲風のワルツ

この楽章は「アレグレット・グラツィオーソ」。
優雅なワルツ風の音楽です。
交響曲の第3楽章といえば、普通はメヌエットやスケルツォ形式ですが、
ドヴォルザークはあえてワルツのような間奏曲風に仕上げています。
中間部ではテンポが速まり、「モルト・ヴィヴァーチェ」へ。
ここでは、スラブ舞曲のようなリズムが顔を出します。
しなやかで軽やか。けれど、ほんの少し哀愁を感じさせる響き。
まさにドヴォルザークならではの郷愁の舞曲です。

第4楽章|ユーモアも込めた変奏曲

始まりはトランペットのファンファーレの導入。
そのあとに提示されるのが、テーマとなる旋律です。
このテーマが、形を変えながら何度も登場します。
形式としてはソナタ形式に近いですが、実際は変奏曲風。
ときに牧歌的に、ときにスラブ舞曲のように、音楽が進んでいきます。
また、ところどころ機関車のようなリズムも登場。
鉄道好きだったドヴォルザークは、
よく葉巻をくわえて汽車を眺めに行っていたと言います。
この楽章には、そんな趣味が音型やリズムの中ににじんでいるとも言われます。
バイオリン的な楽しさは?
※アマチュアの人が弾くことを想定しています。
この曲は、弾いていて本当に楽しい。
1stバイオリンは、まさにメロディーメーカー。
歌うような旋律が次々と現れ、すぐに感情移入できます。
一方で、2ndバイオリンにも見せ場はたっぷり。
リズムやハーモニーの動きを支えたり、主旋律の“つなぎ”を担ったり。
ドヴォルザーク自身がもともと内声奏者だったこともあって、
2ndに対する愛情と工夫が感じられます!
どちらのパートになっても
「ああ、いい曲だなあ…」と感じられるはずです!
まとめ|郷愁と自然が織りなす名作
- 長い苦労が結実し、美しき別荘地ヴィソカーで書かれた
- 郷愁・明るさ・ユーモアが共存する、四つの楽章
- どのパートを弾いても“おいしい”、演奏者にも幸せな一曲
ドヴォルザークの交響曲第8番は、
彼の“自然”、“ボヘミア”といった感性が、音楽として結実した作品です。
構造はしっかりしているのに、どこか懐かしくてあたたかい。
西欧的な形式美と、ボヘミアの郷愁が見事に溶け合っています。
演奏する人にとっても、聴く人にとっても、
この曲はいつまでも心に残る一曲になるはずです!
\同時期の名作/
→ 🌎 交響曲第9番「新世界より」|異国に響く郷愁の旋律
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