【ドヴォルザークの魅力が詰まった曲!】ドヴォルザーク/弦楽四重奏曲第12番「アメリカ」解説

ドヴォルザークの「アメリカ」。弦楽四重奏曲のなかで10本の指に入るほど有名な曲です。

この曲は、晩年のドヴォルザークが、スピルヴィルというアメリカの景勝地で過ごしているときの作品です。

ドヴォルザークらしさがあふれ出た、実にのびのびとした曲です。

この記事では、バイオリン歴35年以上・ビオラ歴ありの筆者が、ドヴォルザーク/弦楽四重奏曲「アメリカ」について解説します。

「アメリカ」にはどういったバックストーリーがあるのか。魅力の源泉はどこなのか。
これらを簡単に解説し、聴きどころや演奏面についても紹介していきます。

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簡単な概要まとめ

  • 社交的で親しみやすい人柄
  • 渡米先での忙しい日々、そして景勝地での静養
  • アメリカ民族音楽、自然の声、機関車など「ドヴォルザークらしさ」が詰まった曲

ドヴォルザークの人物像

故郷での音楽教育の影響

ドヴォルザークは、チェコの北ボヘミアにある農村出身です。

当時のボヘミアでは、農村の音楽教育がとても盛んでした。
ドヴォルザークの旋律にボヘミアの民族性を感じるのは、この故郷で受けた音楽教育が源泉だと言われています。

彼は農村でバイオリンを習い、のちにその技術が認められて音楽家として歩んでいくことになります。

社交的で親しみやすい性格

青年期以降のドヴォルザークは、社交的な性格でした。

理由は、彼がもともと音楽家ではなく「肉屋兼旅館の後継ぎ」として育てられたためと言われています。
常に他の村々との交渉を見ており、また彼自身もたくさんのコミュニケーションの機会があったのでしょう。

彼はまた、愛妻家としても有名です。

愛妻アンナと6人の子宝に恵まれ、円満な家庭を築きました。
彼の温かく親しみやすいメロディーには、穏やかな性格、その裏に隠された沢山の苦労が礎となっているのでしょう。

ほかにも、鉄道好きなことが挙げられます。

作曲で悩んでいるときは、葉巻を1本くわえ、火をつけて汽車を見に出かけていました。
汽車のことなら、型でも時刻表でも実によく知っていて、汽車を眺めて帰ってくる頃には口笛を吹いていたそうです。

素敵な趣味ですね。
このためか、彼の音楽には、鉄道の走る音をモチーフにしたような音型がたくさんあります。

弦楽四重奏曲第12番のバックストーリー

ニューヨークの音楽院の校長としての忙しい日々

晩年のドヴォルザーク(51歳)は、ニューヨークにあるナショナル音楽院の校長職として、アメリカから招待を受けました。

音楽院での生活はとても忙しく、週3回は作曲の授業を担当し、週2回は音楽院で学生オーケストラを指揮しました。

そして何より彼は大都会の雰囲気に圧倒されたようです。

「ニューヨークはほとんどロンドンのような巨大な町であり、生活は朝から晩まで、とおりもまたひじょうにさまざまな様相を見せながら、生き生きとして活気に満ちている。」

アメリカ民族音楽の影響

ナショナル音楽院での生活は、ドヴォルザークにとって良い意味で大きな刺激となりました。

理由は、人種差別のない音楽院に勤務できたからです。

ドヴォルザークは、黒人やアメリカインディアンたちと不自然な感情なしに接触することができました。

特に、黒人霊歌のメロディーや、インディアンの民族音楽に興味があったそうです。

実際に、彼のアメリカ滞在中の曲には、黒人霊歌やインディアン音楽をベースとした旋律が多く出てくるのです。

ドヴォルザークの助手コヴァジーク:
「…少なくともドヴォルザークがインディアンにたいへん興味を抱いていたことはお伝えできると思います」

景勝地スピルヴィルでの保養、「アメリカ」の作曲

ドヴォルザークは、ナショナル音楽院で精力的に教鞭を取りました。
しかし、北ボヘミアの農村出身である彼にとって、大都会での日々は落ち着かないものだったようです。
彼は、交響曲第9番「新世界より」を作曲した後に、スピルヴィルという保養地にしばらく身を移しました。
スピルヴィルは風光明媚で、ドヴォルザークはこの地をたいへん気に入りました。
このスピルヴィル滞在中に書かれたのが、今回の「アメリカ」なのです。
 

曲の特徴

この曲は、全25分という短さで、気軽に聴くことができます。

また、「ドヴォルザークらしさ」を存分に感じられる曲です。

彼のアメリカ滞在中の曲は、いつもより激しいものが多いですが(例:「新世界より」)、この曲はアドレナリンを静めたかのように、彼らしくのびのびとしています。

アメリカ民族音楽自然の鳴き声機関車の音など・・・彼の本領が発揮されています。

特に、アメリカの黒人民謡の影響を受けています。

このアメリカ民族音楽の要素に、彼のルーツであるボヘミア音楽が混ざり、何ともいえない色彩感郷愁を感じられます。

第1楽章

Allegro ma non troppo
~快速に、甚だしくなく

アメリカ民謡の要素が強い楽章です。

第一主題がとても大切で、曲中のさまざまなところで形を変えて出てきます。
この主題は、4度と7度を欠いています。
アメリカ民族音楽…インディアンの音階をベースにしていると言われます。

第2楽章

Lento
~緩慢に~

とてもノスタルジックな緩徐楽章です。

1,3,4楽章がF-dur(ヘ長調)であるのに対し、この楽章だけd-moll(ニ短調)です。

1stVnとVcが抒情的に歌い、内声が揺らぐようなリズムを作るのが印象的です。

第3楽章

Molto Vivace
とても生き生きと

この楽章は、ボヘミア音楽の色彩が強いと言われています。
さまざまな音楽の色をかけ合わせるのも、ドヴォルザークならでは、ですね。

道中の1stVnは、アメリカ滞在中の鳥の鳴き声をモチーフにしています。

第4楽章

Vivace, ma non troppo
~生き生きと、甚だしくなく~

内声の快活なリズムで有名な終楽章です。

ドヴォルザークが、アメリカ旅行中に乗った機関車のエンジン音から着想を得たとされています。

演奏難易度(バイオリン)

※1stバイオリン、2ndバイオリンを基準としています。
 なお、アマチュアの人が休日や部活動で弾くことを想定しています。

技術難度は標準~やや易しいです。

1stはのびのびとメロディーを弾けて、2ndも役割が多く楽しいと思います!

一方で、ハーモニーに関しては難所があります。
具体的には、1楽章の第二主題(ゆったりしたところ)や、転調する部分です。

こういったハーモニーまで合わせられると非常にきれいなのですが・・・

プロはともかく、アマチュアでハーモニーも聴かせている演奏はほとんど無いのが現実です(;^_^

というのも、この曲は有名すぎて、経験を積んで上達するほど、かえって演奏されなくなるからです。
「せっかくの機会だから他の難曲をやりたい!」という理由で。

筆者も、いつかこの曲にちゃんと取り組みたいと思っています。いつか(笑)

まとめ

  • 社交的で親しみやすい人柄
  • 渡米先での忙しい日々、そして景勝地での静養
  • アメリカ民族音楽、自然の声、機関車など「ドヴォルザークらしさ」が詰まった曲

ドヴォルザークの魅力がたっぷり詰まった「アメリカ」を紹介しました。

同じ時期に書かれた 「新世界より」とはだいぶ異なり、のびのびとした曲調です。

聴くのはもちろん、弾く機会があればぜひ堪能してください。

ドヴォルザークにとっては、大都会の喧騒よりも、自然豊かで新鮮な空気のほうが合っていたのかもしれませんね(;^_^A

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