- 『アメリカ四重奏曲』って、どこが“アメリカ”なの?
- 演奏するのは難しい?初めてでも大丈夫?
弦楽四重奏曲第12番「アメリカ」は、ドヴォルザークがアメリカで過ごした夏休みに生まれた作品です。
ドヴォルザークらしさがあふれ出る、のびのびとした雰囲気が魅力。
さらに、現地ならではの民族音楽も色濃く反映されています。

この記事では、バイオリン歴35年以上・ビオラ経験もある筆者が、
この曲の背景と魅力を演奏者目線から解説します。
読むだけで、この一曲がもっと好きになるはずです!
- 「アメリカ」の由来とは?
- 本曲の聴きどころと、各楽章の面白さ
- 演奏者の魅力 – 特徴的なリズムのとらえ方が大切!
「アメリカ」はどう作られた?
スピルヴィルでの”夏休み”に創作された

この曲が作られたのは1893年の夏。
アメリカ・アイオワ州の小さな村「スピルヴィル」で作られました。
スピルヴィルは静かな村で、ドヴォルザークの故郷であるチェコ系移民が多く住む場所。
自然豊かで、どこか故郷に似た雰囲気もありました。
ドヴォルザークはこの地に「保養」のために訪れたのです。
都会での喧騒から離れたドヴォルザークは、心身ともにリラックスし、のびのびと作曲に取り組むことができました。
その穏やかな空気が、この「アメリカ」ののどかで親しみやすい響きに直結しています。
なぜ疲れていたのか?|音楽院と大都会のストレス

なぜドヴォルザークは保養を求めていたのでしょうか?
——それは、直前の大都会での生活に疲れてしまったからでした。
この曲が書かれる少し前、ドヴォルザークはニューヨークにあるナショナル音楽院の校長として招かれていました。
週に複数回の授業や指揮。
さらには異国・しかも大都市での慣れない生活…
ドヴォルザークは心身ともに疲れ切っていたようです。
「ニューヨークはロンドンのように巨大で、生活は朝から晩まで活気に満ちている」
と手紙に書いているほどで、チェコの農村出身の彼には負担の大きい環境でした。
アメリカ民族音楽との出会い|黒人霊歌とインディアンの響き

ナショナル音楽院では、よい出会いも多くありました。
特に刺激となったのは、黒人霊歌やアメリカインディアンの音楽です。
幸い、ナショナル音楽院は人種差別が少ない場所でした。
そのため、彼は自然にこれらの文化と接することができたのです。
特に黒人霊歌の旋律や音階は、彼の創作に新しい風を吹き込みました。
「アメリカ四重奏曲」にもその影響は色濃く表れています。
「ドヴォルザークはとりわけ民族音楽に強い関心を持っていました。」
助手のコヴァジークも、このように証言しています。
「アメリカ」全4楽章の聴きどころ
第1楽章|民族由来の、翼を持ったメロディー

↑古い録音のため聴きづらいかもしれません!(以下同様)
冒頭のビオラの旋律が、聴く人の心を掴みます。
まるで広大な大地を駆けるように伸びやかですね。
この旋律は、アメリカ民族音楽の影響があるとされています。
4度と7度を欠いた音使いが特徴。
この曲の中で、何度も形を変えて登場します。
リズム感も強く、さまざまな郷愁を呼び起こす名音楽です。

第2楽章|郷愁ただよう「深い河」


静かでノスタルジックな楽章。
黒人霊歌「深い河」に霊感を受けたと言われます。
1、3、4楽章が明るいF-dur(ヘ長調)なのに対し、ここだけはd-moll(ニ短調)。
1stバイオリンとチェロが歌い、内声がゆったり揺れるように響きます。
第3楽章|ボヘミアのリズム、鳥のさえずり


この楽章は、ドヴォルザークの故郷ボヘミアの色も強く出ています。
途中、1stバイオリンが鳥の鳴き声を思わせるフレーズを奏でるのも印象的。
自然へのまなざしと民族的リズムが重なった、個性的な楽章です。
第4楽章|軽快な機関車リズムで締めくくり

冒頭から内声のリズムが軽快に跳ね、心地よくラストに向かいます。
このリズムは、ドヴォルザークがアメリカで乗った機関車の音に着想を得たとも言われます。

最後まで明るく、爽快な余韻を残して曲を締めくくります。
演奏者としてのポイント


※アマチュアの人が弾くことを想定しています。
この曲は、演奏者としても魅力あふれる作品。
メロディーはのびのびと歌える場面が多く、内声にも活躍の場が沢山あります。

この曲のひとつのポイントは、拍感。
上で掲げたように、第1楽章冒頭は裏拍から始まります。
これを正拍のように感じてしまうのは微妙。落ち着かない「躍動感」を感じられるとよいですね!
また、第4楽章も拍の妙があります。
イントロの終わりは正拍 - そして主題の始まりは弱拍 - からの、応答は裏拍です。
型にはまらない「自由さ」を出せると素敵です!
“感じる”だけでOK。音楽が微妙に変わってくるのです!
ちなみに、この曲は有名すぎて、冒頭のビオラ弾きとしては緊張します。
特に部活動やサークルでやろうものなら、諸先輩方の目線を浴びつつ冒頭を弾くことになります(笑)
筆者も、いつかこの曲に本気で取り組みたいと思っています。
“いつか”…(笑)
まとめ
- 夏休みで羽を伸ばしたようなメロディー
- アメリカ民族音楽の郷愁感
- アマチュアでも楽しめるバランスの良さ
ドヴォルザークの魅力が、気負いなく詰まった《アメリカ四重奏曲》。
同じ時期の《新世界より》と比べても、ずっと自然体で素朴な空気に包まれています。
演奏するにも、じっくり聴くにもぴったりの一曲。
この曲に込められた“夏のひととき”を、ぜひ味わってみてください。
\ほかの解説記事を見る/
- 🌎 ドヴォルザーク|交響曲《新世界より》解説
ニューヨークでの激動の時期が感じられる名作です。 - 🎼 ハイドン|弦楽四重奏曲《ひばり》解説
《アメリカ》と同じく、自由で翼を持った旋律が素敵です。