【芳醇でやわらかな響きが魅力!】メンデルスゾーン/弦楽四重奏曲第1番 解説

  • メンデルスゾーンの弦楽四重奏曲で聴きやすいものはない?
  • 心にしみるような曲を知りたい・・・

メンデルスゾーンで有名な曲といえば、「真夏の夜の夢」「交響曲スコットランド・イタリア」「弦楽八重奏曲」が挙げられます。

これらに比べると、弦楽四重奏曲第1番はさほど有名ではないかもしれません。

しかし、とても素敵な曲なのです。

曲全体を端的に表すと、とても芳醇で柔らかい作品です。

タクマ(筆者)
20歳の青年が作ったとは思えないほど大人びた情景もあります!

この記事では、バイオリン歴35年以上・コンクール入賞歴ありの筆者が、メンデルスゾーンの弦楽四重奏曲第1番について紹介します。

この弦楽四重奏曲の魅力は、どのような所なのか。
当時のメンデルスゾーンはどんな環境で育ったのか。
バックストーリーを簡単に解説したうえで、この曲の聴きどころや演奏面についても紹介していきます。

簡単な概要まとめ

  • 彼の人生でもっとも幸せな時期に作られた
  • 幼少期からの英才教育による高い実力
  • 基本に忠実 プラス、彼特有の抒情的なメロディーが魅力
  • 初めてのグループにもおすすめ

作曲背景

順風満帆な時期に作られた曲

この曲は、メンデルスゾーンの短い生涯のなかでも非常に幸せな時期に作られました。

具体的には、彼が「マタイ受難曲」の蘇演で大成功を収め、名声とともにイギリスへ演奏旅行をしていたときの曲です。

そのため、曲全体としても、心が穏やかになる空気に満ちあふれています。

ちなみに、この曲は「ベティ・ビストール」という、天文学者の娘へプレゼントされました。

一説によると彼女はメンデルスゾーンの恋人とも言われていますが、定かではありません。

幼少期の恵まれた音楽環境

メンデルスゾーンの音楽環境はとても恵まれており、彼の早熟さに大きく寄与しました。

母親のレアはプロ並みのピアニストで、メンデルスゾーンが4歳のときからピアノを教えていました。

父親のアブラハムは銀行を経営しており、豊かな人脈財力を持っていました。

父親の人脈により、メンデルスゾーンは12歳のとき、かの有名な文豪ゲーテと親しくなり、啓蒙を受けることができました。

また、彼の家では毎週「日曜演奏会」が開かれており、パガニーニやウェーバーといった巨匠も集っていました。

そのため、彼は作曲したものをすぐに披露できる場があったのです。

こうした環境により、彼は「神童」「第二のモールァルト」と呼ばれるほどの腕前を早期に身につけました。

だから、彼の作品は初期でも完成度が高く、ほかの作曲家の晩年作にも引けを取らないほど円熟しているのです。

タクマ
正直、彼の作品は技能が卓越しすぎていて、初期と後期で違いが感じられないです(笑)

曲の特徴

全体

冒頭にも述べたとおり、とても芳醇でやわらかな音楽です。
全体の構成は、基本に忠実です。ハイドンやベートーヴェンの弦楽四重奏曲に影響を受けているためでしょう。
しかし同時に、メンデルスゾーン特有の抒情的なメロディーや、夢心地を感じられる雰囲気もあります。
調性も、Es-dur(変ホ長調)という奥行きの深いものです。
総じて、ていねいな作りでありつつ、ロマンティックな心地良さを感じられるのがこの曲の魅力なのです。

第1楽章

Adagio non troppo – Allegro non tardante
~ゆるやかだが甚だしくなく - 快速に、遅すぎず~

柔らかい序奏とともに始まります。

感じ方は人それぞれですが、個人的には「祈り」ともとれるような光の差し方です。

提示部以降も、流れる和音の美しさに身を委ねたくなります。

なお、冒頭はベートーヴェンの弦楽四重奏曲第10番「ハープ」の序奏からインスピレーションを受けたと言われています。

第2楽章

Canzonetta: Allegretto
~ほどよく速く~

間奏曲風。

Canzonettaとは、軽い小歌曲や器楽曲のことです。

中間部には、彼の十八番ともいえるスケルツォが散りばめられています。精霊たちが踊りをしているかのようです。

第3楽章

Andante espressivo
~歩くような速さで、表情豊かに~

豊潤だがどこか哀しさも感じられる音楽です。

たとえば、少年たちの冒険が終わり、夕暮れの中帰路につく姿か。

または、老人がひとり椅子に座り、昔を思い返しているような情景か・・・

折り重なる和音が、私たちを想像へと誘います。

第4楽章

Molto Allegro e Vivace
~とても快速に、生き生きと~

慟哭。

しかし叫びだけではなく、感情が揺れるようなハーモニーがたくさん隠れています。

クライマックスでは数々の転調を繰り返します。

とても激しい音楽ですが、クライマックスを迎えた後は徐々に波が落ち着いていきます。

最終的に、第一楽章の穏やかなテーマが回帰し、静かに幕を閉じます。

演奏難易度(バイオリン)

※バイオリンを基準としています。
 なお、アマチュアの人が休日や部活動で弾くことを想定しています。

総じて、初めてのグループにもおすすめです。

理由は、2楽章(一部)と4楽章を除けば技術的に弾きやすいからです。

また、テンポが速すぎないので、難所に対しても落ちついて取り組めます。

一方、この曲で難しいのは音程
この曲のEs-durという調性は鳴りにくいです。簡単にいうと倍音が鳴りにくいからです。
そのため音程が取りづらかったり、ハーモニーを合わせづらかったりします。

次点で難しいのは、推進力
いわゆる「お見合い」をしやすいです。
音楽の行き先を長く見据えて弾くといいでしょう。

最終的に、音程がまとまっていて、かつ推進力のある演奏になると、とても素敵ですね。

まとめ

  • 彼の人生でもっとも幸せな時期に作られた
  • 幼少期からの英才教育による高い実力
  • 基本に忠実な作曲でありつつ、全体的なロマンティックさが魅力
  • 初めてのグループにもおすすめ

この曲は、メンデルスゾーンの38年という短い生涯のなかで、幸福に満ちていた時期の作品です。

筆者が大好きな曲のひとつでもあります。

聴くのはもちろん、弾き手としても、機会があればぜひチャレンジしてください!