【問いかけで始まるロマンチックな曲】メンデルスゾーン/弦楽四重奏曲第2番 解説

  • メンデルスゾーンの弦楽四重奏曲で聴きやすいものはない?
  • 弾くにあたって作曲背景を知っておきたい!

メンデルスゾーンの弦楽四重奏曲で、もっとも有名と思われるのはこの第2番。
「第2番」とされながらも、実は第1~6番のなかで最初に作られました。

タクマ(筆者)
初期の作品とは思えないほどの完成度。とても素敵な曲です!

この記事では、バイオリン歴35年以上・コンクール入賞歴ありの筆者が、メンデルスゾーンの弦楽四重奏曲第2番について紹介します。

この弦楽四重奏曲の魅力は、どのような所なのか。
当時のメンデルスゾーンはどんな環境で育ったのか。
バックストーリーを簡単に解説したうえで、この曲の聴きどころや演奏面についても紹介していきます。

簡単な概要まとめ

  • 18歳という若さで作られた
  • 両親の英才教育により、すでに技法が熟していた
  • ベートーヴェンの後期弦楽四重奏曲に影響を受けた
  • 基本に忠実だけれど、彼特有のロマンチックさが魅力
  • わりと取り組みやすい

作曲背景

18歳という若さで作られた曲

この曲は、1827年…メンデルスゾーンが18歳のときに作られました。

ものすごい若さですよね。

しかも、メンデルスゾーンが室内楽曲自体を書き始めたのはさらに幼少の14歳からでした。
なので、この曲に取り掛かる前に、すでに弦楽五重奏曲第1番や、かの弦楽八重奏曲を完成させていました。

ちなみに、ベートーヴェンが最初の弦楽四重奏曲を書いたのは28歳。ハイドンでも20歳半ばです。
メンデルスゾーンがいかに早熟の天才かがうかがえますね・・・

幼少期の恵まれた音楽環境

メンデルスゾーンの音楽環境はとても恵まれており、彼の早熟さに大きく寄与しました。

母親のレアはプロ並みのピアニストで、メンデルスゾーンが4歳のときからピアノを教えていました。

父親のアブラハムは銀行を経営しており、豊かな人脈財力を持っていました。

父親の人脈により、メンデルスゾーンは12歳のとき、かの有名な文豪ゲーテと親しくなり、啓蒙を受けることができました。

また、当時有名だった音楽家ツェルターに作曲の手ほどきを受けることもできました。

さらに、彼は自分が書き上げた作品をすぐに演奏できる場があったのです。

彼の家は4~5世帯はゆうに暮らせるほどの邸宅で、週に1回「日曜演奏会」を開いていたからです。
日曜演奏会の規模はとても大きく、パガニーニやウェーバーも集うものでした。

こうした環境により、彼は「神童」「第二のモールァルト」と呼ばれるほどの腕前を10代にして身につけたのです。

ベートーヴェンの弦楽四重奏曲に影響を受けた

メンデルスゾーンは、ベートーヴェンの作品の虜となっていました。

この第2番も、ベートーヴェンの死がきっかけで書かれたと言われています。

彼はベートーヴェンの弦楽四重奏曲を分析し、そこから自作に多くの引用を散りばめたのです。

特に、当時不評だった後期弦楽四重奏曲をよく研究しました。

そのため、この第2番や、同じ初期作品である第1番には、ベートーヴェンの曲と似たモチーフが良く出てくるのです。

ここまでの作曲背景をまとめるとこうなります:

  • 母親はプロ並みの腕をもつピアニストだった
  • 父親の人脈により、文豪や音楽家から啓蒙を受けた
  • これらのおかげで、18歳という若さで円熟した技能を持っていた
  • ベートーヴェンの弦楽四重奏曲の影響を受けた

曲の特徴

問いかけに始まり、答えのように終わる曲

この曲でもっとも特徴的なのは、序奏の一句です。

まるで問いかけのような句ですね。
これは「Ist es wahr?」という、彼自身の歌曲からの引用です。
=「きみが僕を待っているというのは本当?」という意味の、少しロマンチックな内容です。
1楽章では、この問いかけのあと、短調に転調し、雲が覆われるように暗くなってしまいます。
しかし、終楽章でこの問いかけが再び現れたとき、まるで答えのように長調のフレーズが返ってくるのです。
とても素敵ですね。
なので個人的なこだわりとして、この曲は1~4楽章までのセットでぜひ聴いてほしいのです。

第1楽章

Adagio – Allegro vivace
~ゆるやかに - 快速に生き生きと~

4声部をフルに使った、愛のある序奏から始まります。

先ほどの「Ist es wahr?」という問いかけとともに、暗雲立ち込める提示部へ。

提示部からは暗く、そわそわするように動きます。

この主題のフレーズは、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲第15番にとても似ています。

第2楽章

Adagio non lento
~ゆるやかに、しかし遅くなく~

安らぎのように素敵なカンタービレ。

しかし、唐突にビオラが独白を行い、ほかの楽器も追いかけるようにフーガが始まります。
これはベートーヴェンの弦楽四重奏曲第11番「セリオーソ」からヒントを得たと思われます。

第3楽章

Intermezzo: Allegretto con moto
~間奏曲:やや速く、動きを持って~

軽やかな間奏楽章です。

中間部のスタッカートは、のちの「真夏の夜の夢」を思わせるような、妖精の踊りに聴こえます。

第4楽章

Presto
~急速に~

稲妻のようなトレモロ(厳密には16分)。
1stバイオリンが激白するかのように歌います。

この構成は、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲第15番(4楽章)から得たものと思われます。

主題は、力強くも諦めを感じる、もの悲しい曲調。
楽章の大部分が暗い。途中には暴走も・・・

ついには1stバイオリンが最後の力とばかりに、レチタティーヴォを歌い切ります。

すると、なんと1楽章の序奏が現れるのです。

まるで憔悴した者に安らぎを与えるかのよう。

「Ist es wahr」の問いかけもあり、今度は答えが返ってきます。

そのまま終息につきます。

演奏難易度(バイオリン)

※バイオリンを基準としています。
 なお、アマチュアの人が休日や部活動で弾くことを想定しています。

比較的シンプルで取り組みやすいです。初めてのグループにもおすすめです。

特に1楽章は技術的にも無理がないです。
「時間がないから1楽章分だけ演奏したい!」というグループにもおすすめです。

(本当は全楽章セットで演奏してほしいですが(;^_^A)

なお、2楽章以降は、技術力が必要な場面もところどころ出てきます。

まとめ

  • 18歳という若さで作られた
  • 両親の英才教育により、すでに技法が熟していた
  • 亡きベートーヴェンの後期四重奏曲に影響されている
  • 基本に忠実だけれど、彼特有のロマンチックさが魅力
  • 取り組みやすくておすすめ

この曲は、18歳の作品とは思えないほど円熟していますが、同時にメンデルスゾーンの青春時代を表すようにロマンチックです。

聴くのはもちろん、弾き手としても、機会があればぜひチャレンジしてください!