モーツァルトには、弦楽四重奏曲にも名曲が沢山あります!
この弦楽四重奏曲「春」は、まるで生命の息吹を感じるよう。
また、楽想が泉のようにあふれ出る、想像力豊かな曲です。
彼の敬愛する師をはじめ、さまざまな出会いと探求が表れたかのようです!
この記事では、バイオリン歴35年以上・海外学生コンクール入賞歴ありの筆者が、モーツァルトの弦楽四重奏曲「春」を解説します。
簡単なまとめ
- 「ハイドンセット」…ハイドンへの敬愛を込めた作品
- 明るく、生命力を感じる
- 新たな楽想が宇宙のようにあふれ出る!
モーツァルトの人物像

モーツァルトの人物像をまとめると次のとおりです。
- 天真爛漫で短命
- 明るく優美な作風
天真爛漫で短命
モーツァルトは、1756-1791年に活躍しました。
実はとても短命…
幼少期から身体が弱く、35歳で亡くなりました。
出身は、ウィーンのザルツブルクです。
性格は、とても天真爛漫。
そして、感受性豊かでした。
一方、彼の父親はかなり堅い人でした。
モーツァルトは父親の教えや忠告にたびたびうんざりする場面もあったそうです。
モーツァルトは「非常識」でよく話題になるが、ちょっと誇張かもしれません。
そもそも彼は、幼い頃から各地の貴族のもとで演奏していたし、青年期以降は日銭を稼ぐためにレッスンもしていました。
想像よりもなじみやすい人だと思います。
彼の手紙には「暴言」のような言い回しが出てきますが、これも当時ザルツブルクでよく使われていた冗談だと研究されています。
明るく優美な作風


モーツァルトの作風は、とても朗らか。
ほとんどが長調です。
これは、18世紀の流行…ロココからくるものでした。
当時の音楽家は、貴族に仕えて生計を立てていました。
そして貴族の流行は、優美・華やかなロココ芸術だったのです。
そのほか、彼の早熟さも、屈託のない作風の要因だと思われます。
彼は幼い頃から父親に連れられ、ヨーロッパ中で演奏旅行をしていました。
そのため、かなり早熟で、若い頃の作品が多いのです。
「春」の作曲背景
作曲背景は主に次のとおりです。
- 「ハイドンセット」…ハイドンへの敬愛を込めた作品
- バッハ、ヘンデルの影響
「ハイドンセット」…ハイドンへの敬愛を込めた作品


この曲は1782年(26歳)に作られました。
彼はこの頃、名作曲家のハイドンと知り合い、24歳上にも関わらずとても親しくなりました。
そして、ハイドンの弦楽四重奏曲・交響曲に影響を受けたのです。
ハイドンの弦楽四重奏曲は、「4つの楽器の対話」を目指した立体的なものでした。
モーツァルトは、この作風を参考に「ハイドンセット」と呼ばれる6つの室内楽曲を書いたのです。
春は、このハイドンセットの1曲目です。

バッハ、ヘンデルの影響

この年、モーツァルトはバロック音楽の楽譜収集に熱中していました。
スヴィーテン男爵という音楽好きの外交官と出会ったことがきっかけです。
モーツァルトは、彼の「日曜音楽会」で、ヘンデルとバッハを毎週演奏していました。
これを通してバロック音楽の魅力に目覚め、フーガ作品をたくさん作ったのです。

曲の特徴
全体として、とても麗らか!
モーツァルトのさまざまな出会いが表れている曲です。
また、彼の室内楽曲ではスケールが大きいです。
演奏時間も少し長め。繰り返し無しでも25分前後です。
(といっても全時代で見れば短いほうですね)
一番の特徴は4楽章です。
この曲の4楽章のフーガは、彼の最後の交響曲「ジュピター」の前身と言われます。
第1楽章…溌剌


(冒頭) ※古い録音のため聴きづらいかもしれません!(以下同様)
(第二主題)
“Vivace assai”…とても生き生きと。
「春」の愛称のとおり、快活な楽章です。
第一主題は溌剌としています。ただ、pfが急激に交代したり、半音で色を出したりと、奥深さもあります。
第二主題は、さらにスキップしたくなるような麗らかさです。
第2楽章…爽やかなメヌエットと彷徨うトリオ


明るく爽やかなメヌエット、彷徨うような暗いトリオの楽章です。
(モーツァルトは、メヌエットを第2楽章、緩徐楽章を第3楽章に持ってくることが多いです。)
特にトリオが印象的。
モーツァルトにとって宿命的な調性ともいいうる「ト短調」で書かれています。
暗いですが、気品の高さも感じます。
第3楽章…動きのあるカンタービレ

“Andante cantabile”…美しい緩徐楽章です。
最初こそ穏やかですが、徐々に中低弦主体の3連符で楽章全体に動きが出てきます。
一方、カンタービレなのにときどきぽつりと途絶えることもある…不思議な楽章です。
第4楽章…宇宙のような立体感

4つの音が繰り返される、フーガ形式の終楽章。
交響曲「ジュピター」の前身とも言われます。
複数のフガートが重なる時の立体感、構築美がすばらしいです。

バイオリン弾きの視点
※アマチュアの人が休日や部活動で弾くことを想定しています。
初めてからベテランまでおすすめです!
技術的にはさほど難しくないです。
ポイントとして、まず彼の曲ではフレーズが長め。
そして受け渡しが多い曲です。
「ここまででひとつのフレーズ」を意識できると素敵です。
また、拍感や流れを感じるのも大切です。
考えるあまり流れを失わないように弾きましょう。
同じ流れ・同じハーモニーは「ひと息で弾く」ことも大事です!
まとめ
- 「ハイドンセット」…ハイドンへの敬愛を込めた作品
- 明るく、生命力を感じる
- 新たな楽想が宇宙のようにあふれ出る!
モーツァルトの「春」を紹介しました。
まさに、楽想のあふれ出る花畑を歩くかのような曲です!
機会があれば、ぜひその麗らかさを楽しんでください。