クラシック音楽の世界には、不思議な名作がいくつもあります。
その中でも特に有名なのが、シューベルトの《未完成交響曲》。
名前の通り、完成していないのに、今では彼の代表作の一つとして愛されています。
この曲は、彼の晩年期に書かれました。
静かなる葛藤と、歌い紡ぐようなメロディーの美しさが魅力です。
本記事では、バイオリン歴35年以上の筆者が、未完成交響曲の特徴を解説。
作曲経緯・各楽章の内容のほか、バイオリン弾きとしての視点も紹介します!
- 「未完成」なのに名作とされる理由
- シューベルトってどんな人?
- 曲の聴きどころ(各楽章)
- バイオリン弾きの視点からの楽しみ方
作曲背景
基礎知識 - 3楽章の途中で手が止まった作品

この曲が書かれたのは1822年の暮れです。
シューベルトは当時、ようやく出版社と契約を結び、少しずつ生活が安定し始めた時期でした。
第1楽章と第2楽章を書き上げたものの、第3楽章の途中で筆が止まり…
そのまま完成することはありませんでした。
どうして完成しなかったのか?

その理由は、実ははっきりとは分かっていません。
- 当時、シューベルトは重い病(梅毒)にかかっていた
- 他に気になるプロジェクトがあった
- 気持ちが続かなかった…?
など、いろいろな説があります。
彼は、この未完成交響曲を友人のヒュッテンブレンナーに贈りました。
ヒュッテンブレンナーは音楽協会の会長で、シューベルトを協会の名誉会員に推挙してくれたのです。
その友人が机の奥にしまい込んだまま放置していたため、この名曲が世に出たのはシューベルトの死後、1865年になってからでした。
未完成作品の多かったシューベルト
実は、シューベルトの後半作品は未完成のものが非常に多いのです。
有名なものだと、弦楽四重奏曲《四重奏断章》。
そして、交響曲だけでも6曲分もスケッチだけのものがあります。
未完成作品が多い理由は、彼の性格とも言われていますし、
あるいは専門音楽家としてのプレッシャーもあったのかもしれません。
(彼は、教師時代だった前期と、専門音楽家としての後期で、作風がかなり異なるのです)
深掘り - シューベルトってどんな人?

シューベルト(1797-1828)は、わずか31歳で亡くなった早世の作曲家。
自分からガンガン売り込むようなタイプではなく、控えめで目立つのが苦手な性格でした。
出版や演奏活動も、友人たちの助けがなければ難しかったほど。
それでも、彼が書いたメロディには、どこか人の心に寄り添うような優しさと深さがあります。
「歌曲の王」として知られるシューベルトですが、その歌心は交響曲にもたっぷり詰まっているのです。
曲の特徴
第1楽章 内なる葛藤と高揚感


(序奏~第一主題) ※古い音源なので聴きづらいかもしれません!(以下同様)
(第二主題)
冒頭、低弦がそっとつぶやくように始まる主題が、この曲全体のキーワード。
クラリネットとオーボエによる民謡風の第一主題や、チェロの第二主題が登場しますが、それらが調性の不安定さの中で揺れ動きます。
まるで、静かな葛藤と抑えきれない情熱が交錯するような音楽。
ベートーヴェンの存在に畏敬の念を抱いていたシューベルトですが、ここには彼自身の音楽的個性がしっかりと現れています。
シューベルトは楽譜の書き方があまり綺麗ではありませんでした。
たとえば、上の第一楽章の譜例はアクセントなのかデクレッシェンドなのか判然とせず、今日でも見解が分かれたままなのです。
第2楽章 憧れと静けさに包まれて


(第一主題)
(第二主題)
コラールのような第一主題が、ファンタジックな響きの中で歌われます。
繊細な転調をともないながら、第二主題へ…この旋律がまた美しい!
まるで誰かの心の奥底のつぶやきのように、やさしく、でも深く響いてきます。
最後は静かに、余韻を残して幕を閉じます。
バイオリン弾きから見た「未完成」
※アマチュアが弾くことを想定しています。
バイオリン弾きにとっては割ととっつきやすいです。
もちろん技術力は人それぞれですが、少なくとも無理難題なシーンはありません。
アマオケでも広く演奏される曲です!
一方、「歌心」や「長いフレーズを大切にする感性」が求められます。
また、ピアノ(p)が多いですが、弓をただ浮かせるだけではバイオリンの真価を発揮できません。
繊細な音色のコントロールが、演奏の鍵になります。
まとめ
- シューベルトの内面が音楽としてにじみ出ている
- 全2楽章ながら、濃密なドラマと情感がある
- 「歌う力」が試される作品
未完成交響曲は、たった2楽章だけでありながら、心を揺さぶるようなドラマと詩情に満ちています。
彼の内面がそのまま音になったような、そんな静かな名作。
ぜひ、深い呼吸とともに味わってみてください。