北欧の作曲家…特にシベリウスの曲は、聴くだけで厳しい自然や、ドラマ、伝説性といったものが感じられます。
彼の交響曲第1番は、その最たるものかもしれません。その曲調のルーツは何なのでしょうか。
今回は、バイオリン歴35年以上、コンクール歴ありの筆者が、シベリウスの交響曲第1番を紹介します。
この記事を読むと、彼のバックストーリー、曲の特徴、バイオリン弾きとしての視点などがわかります。
簡単なまとめ
- 圧政による時代が生んだ、独特の北欧の雰囲気
- 雄大で、神秘的、ある意味幻想的な曲
- テーマは無いが、過去の経験から交響詩風の要素が感じられる
性格・時代背景
人物像
シベリウスは、フィンランドの作曲家です。
彼が生きたのは1865-1957年…時代としては、後期ロマン派に位置します。
同じ時代のチャイコフスキーやボロディンといった作曲家の影響を受けました。
また、彼はもともとバイオリン弾きでしたが、極度のあがり症により本番がトラウマになってしまいました。
そこで、作曲に活路を見出したのです。
ロシアによる圧政の時期
彼の生涯の前半、フィンランドはロシアの圧政を受けていました。
特にこの曲が作られた時期は、ロシア愛国主義者が総督に就いてしまい、ロシアへの絶対的服従を強制させられたのです。
そのため、フィンランドでは国民主義が高まりました。
弾圧に抵抗するもの、北欧のルーツを探求するものなど…圧政のなかで、国民性を訴える運動が盛んになったのです。
もちろんシベリウスも、この思想に大きな影響を受けました。
彼の寒々しい、鬱屈した作風は、フィンランドの気候によるものだけではないのです。
「交響詩」に魅了された作曲家
シベリウスは、数々の交響詩を生み出したことで有名です。
交響詩とは、詩や絵画、物語などの音楽的表現を目的とした曲です。
彼は学生時代から、自然とフィンランド神話、特に『カレワラ』に魅了され、数々の民俗音楽や交響詩を生み出しました。
もっとも、今回紹介する交響曲第1番は、交響詩のような明確なテーマはありません。
ですが、そのドラマ性や雄大さはやはり交響詩的です。テーマ性はなくとも、その作風自体は引き継がれているのだと思われます。
作曲の経緯
この曲が作られたのは1899年。シベリウスが34歳のときです。
彼は、ベルリン留学中にベルリオーズの「幻想交響曲」を聴き、感銘を受けました。
想像力のファンタジックな飛翔、自由な形式…
これに触発された彼は、もともと考えていた標題性の曲をそっちのけに、交響曲第1番を作曲しはじめました。
その勢いはすごく、彼は結婚して子供もいたのに一人で田舎にこもって作曲したのです。
(今だとブーイングされかねない行動ですね…笑)
彼は、4楽章の冒頭で「幻想曲風に」と付けました。
このことからも、幻想交響曲の影響が伺えます。
なお、交響曲第1番は、数年後のパリ万博で「フィンランディア」とともに上演されました。
この上演は、当時ロシアによる圧政に抵抗すべく、フィンランドの国民性を訴えかける目的もありました。
このパリ万博がきっかけで、シベリウスの名は国際的にも知れ渡ったのです。
曲の特徴
とても雄大で、神秘的、ある意味幻想的な曲です。
何かをテーマにした交響詩ではありませんが、まるで北欧の大地を思わせるかのようです。
それまでに作曲された「フィンランディア」「カレリア」などの作風が引き継がれており、ドラマチックです。シーン的な音楽も多いですね。
また、後期ロマン派の曲であるため、それまでのクラシック音楽の構成は守りつつも、自由度が増しています。
より直接的な感情表現や、音色の豊かさ・幅広さを楽しむ曲になっています。
第1楽章
深い森から現れるようなクラリネットの序奏で始まります。
まるでチャイコフスキーの第5番のようです。
序奏が終わると、バイオリンの視界が開けるような刻みにより主部が始まります。
第一主題と第二主題が交互に…時には厳しく、時には幻想的に放たれます。
シーンの切り替わりのハープも詩的ですね。
クライマックスは金管による高揚のあと、2つのピチカートにより断ち切るかのように終わります。
第2楽章
暖炉にいるような暖かい雰囲気で始まります。
牧歌的でもあります。
このテーマは、様々な楽器により繰り返され、変奏も行われます。
中間部では不安で孤高に歌われることも…このときの和声はとても印象的です。
総じてひじょうに抒情的な楽章です。
第3楽章
スケルツォです。
しかし、古典派や初期ロマン派の冗談ぽいものとは全く違います。
荒々しく、粗野的です。
ほかの楽章と比べれば多少弾むようなリズムで、曲全体の重々しさを少し和らげています。
一方、中間部のレントはとても牧歌的です。
第4楽章
「幻想曲のように」… “quasi una fantasia” とシベリウスが付けた楽章です。
その名のとおり、特定の形式に縛られない幻想曲のような楽章となっています。
そのドラマチックさはまるで一篇の交響詩のよう。
全体にわたってシンコペーションによる推進力があり、エネルギーに満ちています。
雰囲気は寒々しいのに、全楽章の中でもっとも心が熱くなります。
1楽章と同様、緊張感あるまま駆け抜けた直後、2つのピチカートで幕を終えます。
しかしこのピチカートは第1楽章と異なり、急激に静まるように弾かれるのです。
何を考え、このピチカートを減衰としたのか…受け手の想像力を喚起させる終末です。
バイオリン弾きの視点
※アマチュアの人が休日や部活動で弾くことを想定しています。
旋律が弾きやすく、感情移入しやすい曲です!
シベリウスは元バイオリニストだったので、弦楽器の作譜については心得があったのでしょう。
また、技術難度も一般的なオケ曲と同じくらいです。
(3,4楽章の一部で手こずるかもしれませんが)
オケ初心者でも頑張れば弾けますし、慣れている人ならより楽しめると思います^^
ただし、アンサンブルはちょっと癖が強いです。
まず3楽章は拍の錯覚が強く、無対策で合奏にいくと間違いなく撃沈します(笑)
どう頑張っても1拍目のように錯覚してしまう…笑
また、全員での強奏・休符が多く、特に休符がくせ者。
オーケストラだと、休符の感覚(長さ)を共有するのが難しいのです。
ゆえにお見合いが多くなり、またフレージングが細切れになりやすいです。
総括すると、バイオリンとしては楽しいものの、アンサンブルの練度を要する曲です。
それだけに、全員でこの曲のドラマを作り上げたときはものすごい達成感があります!
まとめ
- 圧政による時代が生んだ、独特の北欧の雰囲気
- 雄大で、神秘的、ある意味幻想的な曲
- テーマは無いが、過去の経験から交響詩風の要素が感じられる
シベリウスの交響曲第1番を紹介しました。
本作は、シベリウス本来の雰囲気と、彼の作り出したかった幻想的な要素がマッチした名曲です。
聴き手・弾き手として機会があればぜひ味わってください!