シベリウスの交響曲第2番は、とりわけ人気が高い名曲。
「親しみやすさ」と「深み」を兼ね備えた名作です。
この曲が生まれたのは、シベリウスがイタリアを旅していた時期。
地中海の明るさや古代芸術に触れた彼の心に、光が差し込んだような雰囲気が楽想に表れています。
一方で、死や葛藤といった暗い主題も含まれており、ただ明るいだけでは終わらない深さがあるのも特徴です。

この記事では、バイオリン歴35年以上の筆者が、
交響曲第2番の背景や魅力、各楽章の聴きどころまでをわかりやすく解説します。
この曲はなぜ生まれた?
イタリア旅行と支援者の導き

交響曲第2番は、イタリア旅行の最中に着想されました。
大きなきっかけは、彼の沈鬱な心を救おうとした支援者の存在です。
1901年、36歳のシベリウスは大きな悲しみに直面していました。
愛娘キルスティを病気で失い、政治的にはフィンランドがロシアの圧政下に置かれていた時期。
国内の緊張感や個人的な喪失感から、彼の心は深い陰に沈んでいたのです。
そんな中、彼を支えたのが、最大の支援者・カルペラン男爵でした。
カルペランは、イタリア旅行を強く勧める手紙をシベリウスに送ったのです。
「イタリアはカンタービレの国。あらゆるものが明快で、音楽にふさわしい美しさに満ちている。
あなたも、絶対にイタリアへ行くべきだ」
カルペランは他の支援者にも働きかけ、旅行資金5000マルッカを用意。
こうしてシベリウスは、半年にわたるイタリア滞在を実現します。
風光明媚なイタリア滞在

シベリウスは、古代ローマの見事な建築物に感嘆の声を上げました。
ヴェルディの「リゴレット」など、イタリアの音楽にたくさん触れました。
また、フィレンツェにも足を延ばして、キリストにちなむ様々な芸術を目にしました。
(第2楽章に使われるようになります)。
のちに彼は、このイタリアを「魔法がかけられたような国」と評しました。
一方、晴れきることはなかった気持ちもあり…
「ドンファン伝説」という、天罰・死をテーマにした伝説にインスピレーションを受けました。
交響曲第2番は、このイタリア旅行中、ラパッロという温暖な町で集中的に作曲されました。
この曲の魅力は?|明暗が織りなす名作の構造

交響曲第2番は、「親しみやすさ」と「深い葛藤」が同居する、極めてバランスの取れた名作です。
親しみやすさの最大の理由は、やはりイタリア旅行。
南国的な風土や古典芸術が。彼の創作意欲を刺激しました。
その影響か、この曲には晴れやかでのびやかな旋律が多く現れます。
一方で、彼の内面にあった悲しみや葛藤も強く反映されています。
特に第2楽章には、死や運命を暗示する重々しい雰囲気に包まれ、聴く者の心をぐっと引き込みます。
そしてフィナーレでは再び光が差し込み、金管が鳴り響くなかで曲は勝利と確信をもって閉じられます。
このように、本曲は「明」と「暗」を行き来しながら、聴き手に豊かな感情の揺らぎを体験させてくれます。
初めてシベリウスを聴く方にも、彼の深い内面世界に触れられる絶好の入り口と言えるでしょう!
各楽章の特徴・聴きどころを紹介!
第1楽章|自然の息吹とほのかな緊張感


↑古い音源なので聴きづらいかもしれません!(以下同様)
弦のさざ波のようなD-durの和声に乗って、気取らない木管のメロディーで幕を開けます。
交響曲第1番の寒々しさとは違い、すこし明るい自然を思わせるようです。
一方、第二主題部分は比較的緊張感が高く、何度か高まりと弛緩を繰り返します。
2度でぶつかる部分なども印象的…厳しさも感じられます。
第2楽章|死と救済を思わせる深い陰影


この交響曲の「暗闇との葛藤」を最も強く表している楽章です。
「ドンファンと石の客」という伝説… 死の訪れへの幻想を表しています。
この作品では、セビリア名家の息子ドンファンが、公爵夫人イサベラ、漁師の娘ティスベーア、貴婦人ドニャ・アナ、田舎娘アミンタを次々と甘言で誘惑する。
そしてドニャ・アナの父親ドン・ゴンサーロが激高して復讐に現れると、ドンファンはこれを斬り捨ててしまう。
ゴンサーロは地元の貴紳だったため慰霊の石像が建てられるが、ある日、これを見つけたドンファンが石像を愚弄すると、石像は亡霊となって動き出し、彼を晩餐に招待したいと申し出る。
亡霊を侮って墓地へやってきたドンファンは、食事をすませたとたん地獄の炎に焼き殺されてしまう。
「ドンファン。黄昏が訪れると、城に見知らぬ客人がやってきた。
お主は誰かと尋ねても返事がない。
その不愛想な相手を楽しませようとしたが、彼は黙ったままだ。
ついに客人が歌を奏で始めると、ドンファンはその正体を知った - 死である」
さらに印象的なのが第二主題です。
Fis-dur…とても深く、神々しい調性。フィレンツェで得たキリストの救済のイメージかもしれません。
第3楽章|荒々しさと安らぎのコントラスト


スケルツォ的な速い楽想と、中間部のレント(遅い部分)が交互に現れる、劇的な構成の楽章です。
速い部分ではリズムが細かく、荒々しさと勢いに満ちています。
一方、中間部では木管が牧歌的な旋律を静かに歌い、ほっと一息つける場面になります。
再び勢いを増しながら終盤へ向かい、切れ目なく第4楽章へと接続されます(アタッカ)。
第4楽章|勝利へと昇華する壮大なフィナーレ

力強く雄大な、ニ長調(D-dur)のフィナーレです。
葛藤を抜け出して、勝利と確信のフィナーレに開けるさまを思わせます。
下記の2つの主題が、さまざまに形を変えて現れます。


後半は、第二主題が横に流れながら盛り上がります。
そしてクライマックスでは、金管の賛歌のようなファンファーレが奏でられ、感動とともに幕を閉じます。
まとめ|バランスと明暗が魅力、シベリウス随一の傑作!
- イタリア旅行による南国的でポジティブな楽想
- 第2楽章に代表される暗さとの葛藤もある
- ひじょうにバランスの取れた時期の作品
交響曲第2番は、シベリウスの内面と外の世界が交錯した、きわめてバランスの取れた交響曲です。
イタリアの明るい空気や芸術に触れることで生まれた伸びやかな旋律と、彼の深層にあった陰の感情。
その両方がこの曲には、等しく、そして見事に表れています。
演奏者にとっても、聴く人にとっても、多くの発見と感動が詰まった1曲。
機会があれば、ぜひ全楽章を通して味わってみてください!
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