- ベートーヴェンの曲って小難しそうなイメージがあるけれど、聴きやすいものはない?
- 初めてベートーヴェンの弦楽四重奏曲を弾くのだけれど、おすすめの曲はある?
ベートーヴェンの弦楽四重奏曲第3番は、非常に伸びやかで聴きやすい作品です。
ハイドンやモーツァルトの作曲様式を忠実に継承しており、とても分かりやすい曲調です。
軽い気持ちで聴くことができ、また、初めてカルテットを弾く人にもおすすめです。
若かりしベートーヴェンの瑞々しさが感じられる作品です!
この記事では、バイオリン歴35年以上・ビオラ歴ありの筆者が、ベートーヴェン・弦楽四重奏曲第3番について解説します。
この記事を読むと、第3番の作曲背景、各楽章の特徴や、難易度が分かります。
簡単な概要まとめ
- 音楽家としての力が認められてきた、順風満帆なときの作品
- 「第3番」ではあるが、作曲は1番目
- とても基本に忠実な作り
- ベートーヴェンの弦楽四重奏曲のなかでは一番弾きやすい
作曲背景
ウィーンに出た青年の順風満帆な音楽生活
弦楽四重奏曲第3番の作曲が始まったのは1798年頃と言われています。
この頃は、ベートーヴェンの音楽家人生が軌道に乗り始め、順風満帆な時期でした。
ベートーヴェンは、1795年にピアニストとしてウィーンでデビューしました。
彼の演奏は絶賛され、また、彼の作曲家としての独創性や迫力にも注目が集まりました。
翌年1796年以降は、プラハ、ドレスデン、ライプツィヒなどで演奏旅行も行っています。
また、ちょうどベートーヴェンくらいの時代から、実力のある音楽家であれば、後援=いわゆるパトロンがつくようになり、宮廷などに雇われなくても生計を立てやすくなりました。
彼もこの頃からたくさんの後援を得ることとなっていきます。
ウィーンに出た青年の順風満帆な音楽生活。
第3番の伸びやかな曲調には、これらの環境が影響したと言われています。
弦楽四重奏曲に対する想いの強さ
実はこの曲、番号こそ第3番ですが、彼の弦楽四重奏曲としては最初の作品です。
この時代、出版としての「作品1」には弦楽四重奏曲が選ばれることが多かったです。
しかし、ベートーヴェンは弦楽四重奏曲の作曲には非常に慎重でした。
その理由は、ハイドン・モーツァルトという先駆者がいて、彼らに匹敵する曲を出すには十分な勉強が必要と感じていたからです。
ベートーヴェンは、モーツァルトの「ハイドンセット」と言われる弦楽四重奏曲第14番、第18番や、ディヴェルティメントなどを繰り返し筆写して研究を重ねました。
また、ベートーヴェン自身も宮廷管弦楽団や歌劇場のビオラ奏者として働き、弦楽器への造詣を深めていきました。
最終的に彼が弦楽四重奏曲を書き始めたのは、作曲家の目標ともいわれる「交響曲」第1番の作曲と同じころと言われています。
そのため、この第3番は、ベートーヴェン最初の弦楽四重奏曲でありながら、とても完成度の高いものになっています。
ハイドン・モーツァルト・ベートーヴェンくらいだと言われています。
さて、作曲背景をまとめるとこうなります:
- ウィーンで音楽家としての実力を認められ、順風満帆な頃だった
- ハイドン・モーツァルトの作品を筆写して研究し、十分に準備をして作曲された
- ベートーヴェン自身も弦楽器奏者としての経験があった
曲の特徴
第3番の作風は、明るく伸びやか。
また、とても基本に忠実です。
ハイドン・モーツァルトの作品を繰り返し筆写しただけあり、彼らの影響を色濃く受けているとされています。
実際に演奏しても、随所にベートーヴェンらしい閃きがあるものの、ああ、古典派の曲だなあと感じられます。
第1楽章
Allegro
屈託のない明るく伸びやかな楽章です。
古典派らしく、1stバイオリンを中心に歌われます。
まず「ラーーーソ↑ーーー」という7度の跳躍が印象的です。
この跳躍だけで伸びやかさが感じられますね。
ベートーヴェンの後の作品でも、このような書き方はよく見られます。
第2楽章
Andante con moto
~アンダンテで、動きを持って~
朗々と歌われる緩徐楽章です。冒頭は2ndバイオリンのメロディーから始まります。
始まりはB-dur。そこから何回も転調し、中間部ではどんどんフラットが増えていきます。
一般的に、シャープやフラットが増えるほど内面性は深くなります。
この曲は全体的に爽やかなイメージですが、2楽章に関しては暖かい暖炉のような感覚を持つかもしれません。
なお、演奏者としては、この楽章が「曲作りとして」一番難しいと思われます。
(「技術的」には4楽章が難しいです)
メロディーラインは、ついつい掘りたくなる音型で、重くなってしまいがちです。
しかし、con motoなのである程度のシンプルさ・推進力も必要です。
また、16分音符の弾き方もかなり軽さに影響してきます。
第3楽章
Allegro – Minore
スケルツォ(=冗談、きまぐれ)風の速い楽章です。
弾むようなリズムが終始続きます。
ただし、転調が多く、途中でMinoreという暗くうごめくような部分もあるため、飽きさせない作りになっています。
第4楽章
Presto
非常に軽快。3楽章に引き続き、弾むようなリズムが印象的です。
また、拍を錯覚させるような作りが特徴的です。
リズムが苦手な人にとっては、少し難しく感じるかもしれません。
難易度
※1stバイオリン、2ndバイオリンを基準としています。
なお、アマチュアの人が休日や部活動で弾くことを想定しています。
この曲は、初めて室内楽を組む人にもとてもおすすめです。
また、2ndバイオリン、ビオラ、チェロにもそこそこ出番があり、全パートやりがいも感じられると思います!
要求技術に関しては、のちの作品と比べれば易しいほうです。
ただ、1stは小回りを求められる部分が多く、器用な人のほうが向いているかもしれません。
アンサンブルも作りやすいでしょう。
ちょっとリズムを錯覚させる部分がありますが、慣れれば問題ないと思います。
弾いていて楽しい気分になれる曲です!
まとめ
- ウィーンでの実力が認められたころの、順風満帆なときの曲
- ハイドン・モーツァルトなどの曲をよく研究して作曲された
- 基本に忠実な作り
- ベートーヴェンの弦楽四重奏曲のなかでは非常に弾きやすくて楽しい
ウィーンで活躍する青年が作り出した、明るい伸びやかな曲です。
ベートーヴェンというと、交響曲(第九や運命など)が注目されがちですが、実は室内楽にも素敵な曲がたくさんあります。
聞き手としてはもちろん、弾き手としても、ぜひチャレンジしてみてください!