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【古典派のなかの、自由な世界】ハイドン/弦楽四重奏曲第67番「ひばり」(Op.64-5) 解説

今回は、ハイドンの中後期作品を紹介します。

「ひばり」の副題が付いているように、澄んだ青空を舞うような曲です。

この年は、ハイドンが強く自由を求め、それが少し叶った時期でもあります。
まるで本人の願望が曲に現れたかのようです。

全体としても短く気軽に聴ける・弾ける曲で、ひじょうにおすすめです!
(1stは若干技術が要りますが…笑)

この記事では、バイオリン歴35年以上・海外学生コンクール入賞歴ありの筆者が、ひばりの魅力やバックストーリーをお伝えします。

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簡単なまとめ

  • 侯爵家の束縛からの解放を願っていた
  • 青空のなかを自由に歌う曲
  • シンプルだが、1stが早業的!

ハイドンの人物像

人物像

ハイドンは、17世紀に活躍した「古典派」の作曲家です。

生涯 77歳で、当時としてはかなり長命。
60歳を過ぎてからも元気に作曲を続けていました。

出身はオーストリア

幼少期は聖歌隊に所属し、青年期以後は主に「エステルハージ家」という貴族に仕えながら音楽活動を行いました。

「ひばり」は、エステルハージ家での終盤の作品です。

古典派の作曲スタイルの確立

ハイドンは、クラシック音楽の「骨組み」を確立した人物です。

交響曲では、ベースとなる4楽章制を定着させ、各楽章の役割を明確にしました。

弦楽四重奏曲では、4つの楽器を対等に対話させるスタイルで、室内楽の新しい地平を開いたのです。

また彼は、とても大人かつ忍耐強い性格で、後輩からは 「パパ・ハイドン」とも呼ばれました。

そして現在でも、「交響曲の父・弦楽四重奏曲の父」と尊敬の念を込めて呼ばれているのです。

「ひばり」の作曲背景

この曲は、ヨハン・トーストという盟友の依頼で作曲されました。

トーストは、もともとエステルハージの楽団員(バイオリニスト)でした。
しかし楽団を去ってパリで活動することになり、ハイドンに演奏活動用として数曲を依頼したのです。

このため、本曲を含む数曲は、第二トースト四重奏曲集と言われます。

 
筆者
よく曲集名でネタにされがちですが、パンのトーストではありません(笑)

自由への渇望

ひばりは、1790年のどこかの時期で書かれました。
この1790年は、ハイドンが強く自由を求め、それが少し叶った時期です。

彼は自分が仕えていたエステルハージ家に恩義を感じつつも、束縛も感じていました。
この原因は、雇われの身ということも勿論でしたが、立地も大きな理由でした。
エステルハージの居城…フェルテードは、当時環境がかなり悪く、都市部からも離れていたのです。

また、彼は直前に旅行していたウィーンでさまざまな音楽家と知り合い、ウィーンへの憧れが強くなりました。

●ウィーンの友人:ゲンツィンガー夫人に宛てた手紙

1790.2.9
さて、いまわたしはわが荒野に住んでいます。
人付き合いもほとんどなく、過ぎ去った得がたい日々の記憶に浸っています。
あのような、皆の心も魂もひとつになる素敵な集いがまたやってくることはあるのでしょうか。
あのときの心の高まりは一体どこへ行ってしまったのでしょうか。
消え去ってしまいました。
すっかり消え去ってしまいました。

1790.6.27
奴隷であり続けるというのはみじめなものです。

同年、転機が訪れました。
主であるニコラウス候が亡くなったことで、ハイドンはエステルハージ家から一時的に解放され、自由の羽を与えられたのです。

彼はすぐにウィーンで家を買いました。
また、この第二トースト四重奏曲集の6曲を持ってイギリスへ行ったのです。

「ひばり」は、これらの出来ごとのどこかで書かれました。
この曲は、彼が自由を渇望した時期の作品なのです。

曲の特徴

とても爽やかです。
トースト四重奏曲群は脂の乗ったものが多いのですが、一方この曲は軽快で聴きやすいです。

自由の喜びを、翼を持ったバイオリンの旋律に乗せて歌う曲。

「ひばり」という副題は誰がつけたか不明だが、曲調をとてもよく表していますね。
※実はハイドンの命名ではありません。

第1楽章

↑古い録音のため聴きづらいかもしれません!(以下同様)

晴れやかで澄み切った響きの楽章です。

この1stの主題は、当時からすると少し長めです。
しかしハイドンは、楽章を通してこの主題を分解しません。
魅力を削がないよう、常にひとつの完結した旋律として扱っています。
のびのびと歌われるメロディーに注目です。

第2楽章

穏やかな楽章です。

高音があまり多くなく、三つの楽器に調和するメロディーが素敵です。

第3楽章

王道のメヌエットですが、弱拍の3拍目にユーモアがあります。

「ひばり」と聞いてしまうと、この装飾もさえずりのように聞こえますね。

和音、強い音、裏拍をうまく駆使している面白い楽章です。

第4楽章

1stの名人芸的な快走です。

この16分のざわめきは、のちのメンデルスゾーンなどに影響しているかもしれませんね。

演奏時間はたったの2分
本当にあっという間の楽章で、すっきりした終わり方が素敵です。

ちなみにこの名人芸は、途中ほかのパートにも伝染します。

 
筆者
それまで余裕ぶっこいていた内声以下が、なぜか緊張しはじめます(笑)

バイオリン弾きの視点

アマチュアの人が休日や部活動で弾くことを想定しています。

全体として、ハイドンの他の有名曲よりも、モーツァルトに近い感じの譜面です。
のびのびした曲が好きで、1stに強い人がいれば、おすすめです!

技術難度は、1st以外は高くありません。
一方、1stは指回りが大変です。献呈者のヨハン・トーストがバイオリニストだったからと思われます。
特に4楽章はまさに名人芸です。
なお、4楽章は途中フーガになっており、1stの早業がほかに伝染するので注意!

筆者
社会人で、たまにしか楽器を弾いていない人だとけっこう大変かも…笑

曲構成はシンプルで、ていねいに組み立てることができます。
4楽章はつい弾くだけで精一杯になりがちですが、忙しさを出さずに弾けるとよいですね。

全体としては、明るい気持ちで弾ける、素敵な曲です!

まとめ

  • 侯爵家の束縛からの解放を願っていた
  • 青空のなかを自由に歌う曲
  • シンプルだが、1stが早業的!

ハイドンの「ひばり」を紹介しました。

17分という短い曲なので、興味があったらぜひ聴いてみてください。

また、軽くて伸びやかな旋律が好きな人は、弾き手としてもおすすめします!

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