【慟哭のように暗い暴走…】メンデルスゾーン/弦楽四重奏曲第6番 解説

今回は、メンデルスゾーン最後の弦楽四重奏曲を紹介します。

メンデルスゾーンの曲といえば、「優雅」「高貴」なイメージが思い浮かびます。

しかし、この弦楽四重奏曲第6番はとても直接的で、激しい曲です。

以前の彼の作風からは考えられないほどに…

この記事を読むと、なぜメンデルスゾーンはこの曲を作ったのか、彼の人生の最期にどんなことがあったのかが分かります。

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簡単なまとめ

  • 姉の死がもたらした再起不能のダメージ
  • 暗い暴走が続き、悲しみが全てを押し流す曲
  • 1stがとにかく大変。2nd以下はしっかり雰囲気を作るのが重要

最愛の姉「ファニー」の死

1847年。フェリクス・メンデルスゾーンの生きた最後の年。

38歳の彼は、多忙な日々を送っていました。

作曲だけではなく、ピアニスト、指揮者、音楽監督など…

彼は、指揮や音楽監督でも一切手を抜かない性格でした。

多忙さはストレスを招き、彼は偏頭痛耳鳴りに悩まされていました。

そんな不調の彼に、再起不能のダメージを与える事件が起きました。

イギリスの演奏旅行からの帰りに、彼は最愛の姉「ファニー」の死を知ったのです。

この姉弟…ファニーフェリクスは、兄弟を超えた仲のよさで、お互いにとって分身のような存在でした。

ファニーは、弟宛ての書簡の中に熱烈な愛の告白が溢れ出てくるような女性でした。

フェリクスも、自分の作曲について、ファニーの意見を誰のものよりも尊重していました。(ファニーもフェリクス同様、幼い頃から音楽教育を受けていました)

それぞれが家庭を持ったあとも、お互いの手紙のやり取りは百以上に及びました。

そんな、自分の心の拠りどころだったファニーの死

フェリクスは、彼女の死を知らせる手紙を読んだ瞬間、ワッと声を上げ卒倒してしまいました。

姉の死後

ファニーの死後、フェリクスの体調は目に見えて悪化しました。

彼の友人たちの証言では、かつては軽くしなやかだった足取りが、引きずるように重くなり、顔色は痩せこけて見えました。

また、彼はきわめて深刻な躁鬱状態になりました。

極端に興奮しやすくなっていたのです。

 

約3か月経った夏のころ、フェリクスはスイスインターラーケンという保養地に赴きました。

スイスの自然に触れることで、姉の死から立ち直ろうとしたのです。

彼は、湖畔の村の無人の教会に入ってオルガンを弾きました。美しいバッハの音楽に救われるようでした。

毎日のように山や湖の美しい光景を水彩画に書き、心を落ち着かせようとしました。

結果、彼の傷は癒えませんでしたが、創作力は取り戻しました。

「私にはまだ与えられた時間がある。それを利用しなくてはいけない」

彼は異質の勢いで作曲を始めました。

当時の友人、フェルディナント・ダーヴィトはこのように語っています。

●フェルディナント・ダーヴィトの証言

「彼は数日間作曲をすると、再び数日間かけて山を歩き回り、疲れ果てて家に帰ってきました。

 そしてすぐに、再び作曲を始めました。

 つまり…彼は極度に興奮していたのです」

こうしてフェリクスが完成させたのが、弦楽四重奏曲第6番です。

弦楽四重奏曲第6番作曲の2か月後、フェリクスは脳溢血により、姉の後を追うように亡くなりました。

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曲の特徴

「姉の死によって全てが変わってしまった…」

というフェリクスの嘆きが聞こえてくるような曲です。

険しく、直接的な表現が多いです。

これまでの弦楽四重奏曲第1~5番を聴いた・弾いた人は、全然性格が違うと感じるでしょう。

第1楽章

不気味に渦巻くように開始します。

トレモロ(正確には16分)による疾走感。

また、メロディーラインには無数の起伏があり、不安を掻き立てます。

終始暗い暴走が続き、最後には悲しみが全てを押し流してしまいます。

第2楽章

1楽章最後の慟哭を受け継いでいるような曲調です。

自暴自棄のように独白するフェリクスが見えるようです。

中間部とコーダでは、疲れたように漂うチェロの音が印象的です。

第3楽章

この曲で唯一の長調です。

ただし、長調といっても明るくはなく、憂いを含んだ翳りのある音楽です。

訴え、諦めといった感情も見えるかもしれません。

まるで、姉に向けたレクイエムのようです。

第4楽章

1楽章の暗い暴走がまた戻ってきました。

冒頭の、意志の強い低音

稲妻のようなトリル(正確には16分)

コーダでは、1stバイオリンが叫ぶように同じ音型を繰り返し、絶望で終わります。

演奏難易度(バイオリン)

アマチュアの人が休日や部活動で弾くことを想定しています。

この曲は、1stバイオリンがとても大変です。

体力的にもそうだが、精神的にも苦しい曲であり、矢面に立たされる1stの演奏でかなり変わってきます。

2nd以下は、弾くだけなら難しくありません。

しかし、1stに任せきりにせずに自分たちでしっかり雰囲気を作り、1stに乗ってもらうのが重要です。

とにかく、1stは弾ききるだけでも大変なのです。
他のパートに「1stに付いていく!」と言われたときには別の意味で絶望します…(笑)

2nd以下だけで練習して、ちゃんと雰囲気が出ているか試すのも面白いかもしれません。

 

そういう意味で、こちらの音源は私とても好きです(記事冒頭と同じものです)。

まとめ

  • 姉の死がもたらした再起不能のダメージ
  • 暗い暴走が続き、悲しみが全てを押し流す曲
  • 1stがとにかく大変。2nd以下はしっかり雰囲気を作るのが重要

メンデルスゾーン最後の弦楽四重奏曲を紹介しました。

幼少期からの人生を音楽に注ぎ、自分に妥協を許さなかった彼の性格でなければ、このような姉の死による衝撃的な曲は出来なかったでしょう。

彼の悲観、絶望をすべて音楽に込めた名曲です。ぜひ一度体験されてください。