バイオリン弦・肩当て、室内楽曲、オーケストラ曲の紹介・解説をしています。興味があればご覧ください!

【解説】モーツァルト 弦楽四重奏曲《不協和音》|ユーモラスで洗練された響き

晩年のモーツァルトによる、軽快でユーモラスな曲——

「不協和音」というちょっとこわそうなタイトルとは裏腹に、
この曲にはモーツァルトらしい軽やかさやユーモアがたっぷり詰まっています。

たしかに第1楽章の出だしは、誰が聴いても「えっ」と思うような不思議な響き。
でもそれ以外は、思わず口ずさみたくなるような明るいメロディが続きます。

筆者
モーツァルトらしい洗練が感じられる、まさに晩年の名作です!

この記事では、バイオリン歴35年以上の筆者が、
弦楽四重奏曲第19番「不協和音」の魅力や背景をご紹介します。
興味のある方はぜひご覧になってください。

  • この曲の特徴と生まれた背景
  • 「不協和音」のタイトルの由来
  • 各楽章の聴きどころ

「不協和音」はどのように生まれた?

ハイドンへの敬意から作られた6つの曲

弦楽四重奏曲《不協和音》は、1785年、モーツァルトが29歳のときに生まれました。
彼は35歳という短い生涯だったため、晩年の創作期の曲です。

当時ウィーンで活動していたモーツァルトは、大作曲家ハイドンと知り合いました。
端正で心を揺さぶるようなハイドンの音符の数々に惹かれたのです。

筆者
「パパ・ハイドン」と敬愛するほどでした♪

ハイドンへの敬意を込めて書かれたのが、6つの弦楽四重奏曲からなる「ハイドンセット」
その締めくくりとして生まれたのが、この《不協和音》です。

構成や対位法の緻密さ、各パートの対等な絡み合いには、ハイドンの影響が随所に感じられます。

「不協和音」と呼ばれる理由

この四重奏曲が《不協和音》と呼ばれるのは、第1楽章の冒頭が由来
ゆったりと始まる序奏部分で、通常の調性感から外れるような、不安定で不思議な和音が次々と現れるのです。

あまりの異質さに、当時の聴衆や演奏家の間では「写譜ミスでは?」とまで疑われたほど。

あるハンガリー貴族の前でこの曲が演奏された際には、
「あなたたちは正しく弾いていない!」と公が怒鳴ったそうです。
そして楽譜通りだと分かると、今度はなんと楽譜を破ったという逸話も残っています。

しかしこの和声は、すべてモーツァルトの計算のうち。
型通りの音楽ではなく、新しい表現を切り開こうとした証ともいえます。

 
筆者
のちに訪れるロマン派の先取りだったのかもしれませんね!

モーツァルトは“天才”だけの人じゃなかった

モーツァルトは”神童”、”天才”と言われますが、実は誰よりも努力家でした。

その象徴ともいえるのが、6歳から行った過密な演奏旅行!
父レオポルトとともに、3年半でミュンヘン、ウィーン、パリ、ロンドンなどを回りました。
各地の音楽を吸収し、貴族に名を売っていったのです。

旅先でも作曲できるようにと、小さな鍵盤楽器を持ち歩き、馬車の中でも楽譜を書いていたといいます。
そんな日々を通じて、彼の才能は磨かれ、ただの神童では終わらない深みを獲得していきました。

そして19歳のとき、故郷ザルツブルクを飛び出し、自立の道を選びました。

最初はなかなか仕事に恵まれず、経済的にも苦しい時期が続きましたが、
やがて自由な芸術活動ができるウィーンに腰を据え、名曲の数々を生み出していったのです。

 
筆者
好きなもののために努力を貫いたその姿勢も、音楽ににじんでいる気がします!
  • ハイドンの敬愛から書かれた「ハイドンセット」の1曲
  • 時代を先取りしたかのような冒頭の不協和音が特徴
  • 実は誰よりも努力家だった!

各楽章の内容、聴きどころを紹介!

第1楽章|異質な序奏、そしてロマンの情景

古い音源なので聴きづらいかもしれません!(以下同様)

(序奏)

冒頭の序奏は、誰が聴いても「えっ?」と感じるような、調性感の外れた響き

ビオラが導く冒頭のAs音に対する、1stのA音——
そこから解決されないまま不安定な和声へと進みます。
19世紀の研究者が「これは修正すべきではないか」と本気で議論したほど。

(主部)

しかし序奏が終わると、一転して明るくロマンを感じさせるアレグロが始まります。
しかも、同じ主題が5回登場するたびに和声づけが変化し、緻密で多層的な味わいを生んでいます。

第2楽章|深い陰影のアンダンテ

緩徐楽章ですが、第一主題は芯のある響きが印象的。

続く推移部では一転して夢見るような雰囲気が広がり、

第二主題ではまた序奏を思わせる不安定さが顔をのぞかせます。

ドイツの音楽学者ヤーンはこの楽章を、
「苦しみと激情の記憶から浄化され、霊的な平安へと導かれる」と評しました。
静かながらも、感情の奥行きを感じる美しい楽章です。

第3楽章|小さな驚きが詰まったメヌエット

一見するとよくある中間楽章のようですが、細かく聴いてみると面白さが満載。

ダイナミクスの切り替えや、モチーフの性格の違いが交互に現れ、
シンプルな形式のなかに遊び心があふれています♪

第4楽章|澄み切った明るいフィナーレ

軽快に駆け出すアレグロ・モルト。

冒頭のアウフタクトのリズムはこの楽章の核です。
他のパートにも影響を与えながら一体感を生み出しています。

転調が多く、音楽が絶えず色彩を変えていくのも聴きどころ。
最後は澄みきった明るさとともに、力強く曲が締めくくられます。

まとめ|「不協和音」が語るもの

  • 時代を先取りした序奏の不協和音
  • 全体はモーツァルトらしい明るさと洗練
  • ハイドンへのオマージュとしての構造美

《不協和音》は、敬愛するハイドンへのオマージュであると同時に、
調和の中に“ひとクセ”を加えた、モーツァルトならではの傑作です。

タイトルばかりに注目されがちですが、
全体はとてもユーモラスで聴きやすい四重奏曲。

ぜひ何度も耳を傾けて、洗練された響きを楽しんでみてください!

筆者
演奏者としても意外に弾きやすくておすすめです♪

🎵 あわせて読みたい関連記事