演奏するうえで、「テンポをどう決めるか」「どこまで揺らすか」は永遠の課題です。
一見、機械的に決められそうでも、テンポは私たちの鼓動や感情と深く結びついています。

年齢や経験によって、自然に感じる速さも変わってきます。
さらに、ソロと室内楽では、テンポの“落とし所”がまったく違うこともあります。
テンポ指定が書かれている曲でも、表現を追求するなら「自分たちに合った速さ」を探すことが大切です。
本記事では、テンポ感の変化や決め方、テンポルバートの使い方まで、
表現力を高めたい演奏者に向けて、実践的な考えをご紹介します。
- テンポの感じ方が年齢や経験によってどう変化するのか
- ソロとアンサンブルで「自然に感じる速さ」がなぜ違うのか
- テンポ指定やテンポルバートをどう“自分の音楽”に活かすか
テンポは脈拍と感性で”揺らぐ”もの

テンポは、感情や身体の状態と一緒に“揺らぐ”ものです。
テンポは「BPMいくつ」と機械的に測れるものと思われがちです。
しかし本来、テンポは人間の脈拍や呼吸と密接に関係しています。
したがって、年齢やそのときの体調で「ちょうどいいテンポ」は変わるのが普通です。
若いころは速めに感じたテンポが、年齢とともに“せわしなく”感じられることもあります。

また、同じ曲でも、朝と夜、練習の序盤と本番直前では、自然と感じる速さが違ってくることもあります。
テンポは感情や身体の状態と一緒に“変わる”ものだと考えると、演奏の自由度もぐっと広がります。
テンポは元来、揺らぐもの――
これを念頭に置いて、さらに踏み込んでいきましょう。
曲のテンポ|主題の性格と細部の聞こえやすさがカギ

曲のテンポを決めるうえで、まず大切なのは「主題の性格」です。
軽やかな旋律なのか、堂々とした主題なのかによって、自然と合うテンポが変わってきます。
また、「音の細部まで聴き取れるかどうか」も、重要な判断基準になります。
テンポが速すぎると細かい音符がつぶれたり、逆に遅すぎると流れが止まってしまうことも。
特に重要なパッセージでは、テンポをほんの少し抑えることで、聴き手に伝わる密度が一気に増すことがあります。
補足として、演奏するホールの残響も関わってきます。
これは、”音の細部を聴かせる”という前提で生まれた考えです!
アンサンブルのテンポ|4人の感覚のバランスで決まる

テンポ感は、自分ひとりで弾くときと、アンサンブルで弾くときとでは大きく変わります。
特に室内楽では、4人いれば4通りのテンポ感があるのが普通です。
カルテットなどで「自然なテンポ」を決めるには、お互いの呼吸や音の“重なり方”に耳を澄ますことが大切です。
誰かひとりの速さを正解にするのではなく、全員が「これだ」と感じるテンポを探る必要があります。
作曲家のテンポ指定とテンポルバート

作曲家のテンポ指定は“絶対値”ではない
楽譜にテンポの数字が書かれていると、それを“正解”として受け取りたくなります。
けれど実際には、その数字どおりに弾くとしっくりこないことも多いものです。

特にベートーヴェンの場合、使っていたメトロノーム自体が不正確だったという説もあります。
つまり、テンポ指定は「作曲家の意図を知る手がかり」ではあっても、「守るべき絶対値」ではないのです。
大切なのは前述のように、曲のキャラクターや細部からテンポを考え、
その上でテンポ指定を“参考値”として取り入れる姿勢です。
時代によって汲み取る”テンポルバート”
19世紀前半までの作品では、テンポルバート(自由さ)が楽譜に書かれていないことが多いです。
だからといって、最初から最後まで全く揺れのない演奏では、音楽が平板になってしまいます。
チェリストのカレル・サードロはこう語っています。
書かれていなくても、そこには微妙なテンポの幅がある。
それを読み取る必要がある」
一方、ヤナーチェクやスメタナなどの作曲家は、テンポの変化を細かく書き残しています。
彼らの楽譜にあるテンポ指示は、ただの“速度の変化”ではなく、「こう聴いてほしい」というメッセージです。
こうした指示を忠実に活かすことで、音楽の意味やニュアンスがより深く伝わります。
まとめ|テンポ選びは“感性と理解”のバランス
- テンポは脈拍や感情とつながる“身体的な感覚”でもある
- 主題の性格や細部の聞こえ方から、最適な速さを見つける
- 団体のテンポは、全員の感覚の”バランス”で決まる
テンポは単なる数字ではなく、音楽の“呼吸”そのものです。
だからこそ、自分の感覚や年齢、演奏スタイルによって自然に変化していくものでもあります。
特にアンサンブルでは、4人の感性が交わるところにこそ、その団体の“ちょうどいいテンポ”が生まれます。
そして作曲家のテンポ指定も、絶対ではなく「ヒント」として向き合うのが理想です。
大切なのは、伝統や表現を無視せず、楽譜と感性のあいだでバランスをとること。
テンポは流行に左右されるものではなく、音楽そのものへの理解から生まれるものです。
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