- フィンランディアって、どんなところが“感動ポイント”なの?
- 有名だけど、どんな背景で作られた曲なのかよく知らない…
そんな方に向けて、バイオリン歴35年以上・オーケストラ歴20年以上の筆者が、
シベリウス『フィンランディア』の魅力をわかりやすく解説します。
この曲は、ロシアの圧政に苦しむフィンランド国民を鼓舞するために生まれた作品です。
暗闇から光へ向かうような劇的な流れと、胸に迫る中間部の旋律は、今なお多くの人の心を揺さぶります。
この記事では、
- フィンランディアが生まれた歴史的背景
- シベリウスの作風と人物像
- 聴く前に知っておきたい、この曲の「ドラマ構造」
をコンパクトに整理。
コンサート前の予習にも、アマチュア奏者の演奏理解にも役立つ内容になっています。

🎼 この曲はどうやって作られた?

フィンランディアは、ロシアの圧政に苦しむフィンランド国民を励ますために生まれた“民族の象徴”のような作品です。
暗闇から光へ進むドラマは、当時の国民感情そのものを映しています。
圧政下のフィンランドと民族運動の高まり

19世紀末のフィンランドは、ロシアの強い支配を受けていました。
フィンランド総督にはロシア愛国主義の人物が就任し、フィンランド語の使用制限や行政の統合など、文化的・政治的な締め付けが進みます。
この圧力に対し、国民のあいだでは“自分たちの文化を守ろう”という気運が急速に高まりました。
芸術家たちも歴史や伝説を題材にした作品を次々と発表し、民族の誇りを表現しようと動き出します。
シベリウスが音楽を担当した舞台劇「歴史的情景」もそのひとつで、フィンランドの苦難と希望を描いた大規模な公演でした。
舞台劇「歴史的情景」から生まれた『フィンランディア』

この舞台劇の第6場面「フィンランドは目覚める」は、人々の心を最も強く揺さぶる場面として大きな支持を集めました。
暗い現実から力強く立ち上がる国民の姿が、そのまま音楽に刻まれていたからです。
その後、シベリウスのもとに「パリ万博を飾る序曲を作ってはどうか」という提案の手紙が届きます。
「貴殿は、パリ万博公演を飾る序曲のような作品を作られたらどうでしょう。
すべてを突き抜けたその曲は、そう、《フィンランディア》と名付けられるべきです」
彼はこの第6場面「フィンランドは目覚める」をもとに大幅な改訂を行い、独立した管弦楽曲として仕上げました。
これこそが、現在知られる『フィンランディア』です。
パリ万博での初演は大成功を収め、フィンランドの誇りと精神を強烈に示す音楽として国内外に広まりました。
フィンランディアは、国民を勇気づける象徴であると同時に、シベリウスを世界的作曲家へ押し上げた代表作となったのです。
🎼 シベリウスの作風

シベリウスの音楽は、北欧の自然や伝説を背景にした“雄大で神秘的な響き”が大きな特徴です。
特に前半期は物語性が濃く、フィンランディアもその真ん中に位置する作品です。
バイオリン弾きが作曲家へ──人物像と創作の出発点
シベリウス(1865–1957)はロマン派の終わりから20世紀初頭に活躍した作曲家です。
実はほんの70年前まで生きていたのです!
もともとはバイオリン奏者として名を上げようとしていましたが、極度のあがり症に悩み、本番を苦痛に感じるようになります。
この経験が転機となり、彼は“演奏家”ではなく“作曲家”としての道に活路を見いだしました。
そんな彼の作風は、前半期と後半期で大きく異なります。
今回のフィンランディアは初期から中期にかけての作品——どれも北欧らしい個性に満ちているのです。
北欧の伝説・自然が息づくサウンド──前半期の特徴
シベリウスの前半期の作品には、北欧の神話・伝説・歴史をモチーフにした“標題音楽”が多くあります。
当時は物語性を持つ音楽が人気で、シベリウスもこの流れに沿いながら、自国文化を積極的に作品へ取り込みました。
代表作には《カレリア組曲》《エン・サガ》などがあり、雄大な自然の広がりや静かな祈りが、独特のオーケストレーションで描かれます。
フィンランディアもまさにこの前半期の作風で、民族的テーマを力強く打ち出した作品です。
中期以降は標題性を控え“絶対音楽”に近づいていきますが、北欧の冷たく清らかな空気感は生涯を通して変わりません。

- フィンランディアは、ロシアの圧政下で苦しむフィンランド国民を励ますために作られた作品。
- シベリウスの前半期は、北欧の伝説や自然を背景にした作風が特徴!
👂 曲の魅力と聴きどころを紹介!
フィンランディアは「苦難 → 闘争 → 祈り → 勝利」という明確なドラマを持つ作品です。
背景を知ると、音の一つ一つに込められた“国民の精神”がより深く伝わってきます。
冒頭の重苦しさから闘争へ──前半のドラマ


(序奏)
↑古い音源なので聴きづらいかもしれません!(以下同様)
曲は金管の強烈な和音で始まります。
これは“苦難のモチーフ”——圧政と閉塞感を象徴する音で、聴き手を一気に緊張の世界へ引き込みます。
続く木管や弦は旋律を引き継ぎ、民衆の嘆きのような歌を奏でます。
(主部)
主部に入ると、冒頭の苦難のモチーフが何度も立ちはだかります。
しかしそのたびに、音源のような“闘争の呼びかけ”が音楽を押し上げ、エネルギーが積み重なっていきます。
弦の刻みが感情を爆発させ、光へ向かう道筋がはっきりと見えてきます。

祈りのような中間部と、歓喜へ向かう後半


(中間部)
中間部では雰囲気が一変します。
木管に始まり、やがて弦へと受け継がれる“フィンランディア賛歌”の旋律は、この曲で最も広く愛される箇所です。
静かで柔らかく、平和への祈りをそっと語りかけるような音楽です。
この中間部は、のちにコスケンニエミという楽士が詩をはめ込んで歌にもされました。
(シベリウス許可のもと)
後半では再び闘争が戻り、緊張感が高まっていきます。
そしてコーダに入ると、金管が中間部の旋律をもとにした壮大なファンファーレを響かせ、音楽は一気に勝利と解放の空気へと到達します。

この“祈りから勝利へ”の展開こそ、フィンランディアが多くの聴衆を魅了してきた最大の理由です。
コンサートでもっとも沸くポイントなので、ぜひ注目して聴いてみてください。
- 難度は比較的やさしめ!
シベリウス初期の作品で、音型も整理されており、部活や市民オケでも取り組みやすい曲です。 - 力みすぎ注意!
闘争の場面はつい弓を力で押し込みがちですが、弦楽器は力むとかえって音が鳴りません。
“適切な重さとスピード” も意識すると、美しく響きます!
🌅 まとめ
-
フィンランディアは、ロシアの圧政下で国民を励ますために作られた曲。
-
“苦難から勝利へ” の流れがわかりやすく、壮大で感動的。
-
北欧の歴史や伝統が、シベリウスの音楽を唯一無二のものにしている!
フィンランディアは、ロシアの圧政に苦しむフィンランド国民を奮い立たせるために生まれた、強いメッセージを持つ作品です。

中間部の「フィンランディア賛歌」は、今でも国民的な歌として愛される名旋律。
そしてコーダは、聴く側にも演奏する側にも強い高揚感をもたらします。
アマチュア奏者にとっても比較的取り組みやすい曲で、合奏の一体感や盛り上がりを味わえるのも魅力です。
コンサート前の予習としても、演奏理解を深めるためにも、ぜひこの作品にじっくり向き合ってみてください。
フィンランディアの光のような響きが、さらに心に染み渡るはずです!
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