チャイコフスキーの交響曲第5番は、壮大なドラマと情熱に満ちた名曲です。
彼の「三大交響曲」(第4~6番)の中でも、最も演奏される機会が多く、多くの人に愛されています。
この曲には、哀愁を帯びた旋律、ロシア的な情緒、そして精巧な構成美が詰まっています。
まさに、チャイコフスキーらしさが凝縮された一曲といえるでしょう。
オーケストラに携わる人なら、一度は演奏したことがあるかもしれません。
🎼本記事では、バイオリン歴35年以上の筆者が、交響曲第5番の魅力を解説。
作曲の背景や聴きどころを知ることで、この名曲がさらに深く楽しめるはずです!
今では世界中で愛される名作となっています!
簡単なまとめ
- よりバランスの取れた美しい交響曲
- 適度に織り交ぜられた標題性
- 技術難度は高いが、クセがなく取り組みやすい!
人物像・作風


人物像…ロマン派ピークの作曲家
チャイコフスキーは1840~93年の作曲家です。
ロマン派の最盛期…オーケストラ曲はもちろん、オペラやバレエなどの名作も生み出しました。
性格は内向的。
ただし、いきなり激情的になることもあったそうです。
彼自身、さまざまなコンプレックスの持ち主だと自覚していたとのこと。
このコンプレックスの原因は色々あります。
作曲家として遅咲きだったことや、性的マイノリティ…同性愛者だったことも一因でしょう。
作風…西欧由来のがっしりさ + 抒情的なメロディー


チャイコフスキーはロシアの作曲家ですが、作風はとても西欧的でがっしりした構築です。
幼少期から西欧音楽に触れ、また、大学院でも西欧をよく勉強していたからです。
一方、地元のロシア民謡を取り入れるなど、抒情的なメロディーも魅力です。
メランコリックともいえる旋律がまた素敵ですね。
とてもドラマチックな音楽となっています!
作曲背景

第5番は1888年に作曲されました。中後期作品です。
よりバランスの取れた美しい交響曲

第5番は、最も均整の取れた美しい交響曲と言われています。
第5番の前後作である第4番・第6番は、非常にインパクトがある曲でした。
- 第4番… 運命という圧倒的な標題性。劇物語のような曲
- 第6番… 「悲愴」という痛切な感情、5拍子や行進曲の独創性
第5番は、これらに比べて感情過多ではありません。
その分、西欧のがっしりした構築美や、バランスが感じられる素敵な曲なのです。
この理由は、本曲執筆までの11年間、彼自身が主に西ヨーロッパにいたからと言われています。
彼は、前作第4番の作曲から11年間、主に西ヨーロッパで生活しました。
この間、ベルリオーズと出会ったり、ゲヴァントハウス管弦楽団を指揮したりと、西欧の強い影響を受けました。
第5番は、ヨーロッパから帰って、フロロフスコエという村で書かれました。
森に囲まれた庭をもつ素敵な家でした。

上手く織り交ぜられた標題性

本作の最初のスケッチには、「運命への絶対服従… 疑念、嘆き」、「絶望」などと書かれています。
実際に、第1楽章は運命への敗北を示すような暗さから始まります。
しかし、全体の曲調から見るに、その標題性は前作第4番よりもマイルドになっています。
標題がうまく曲中に溶け込んでおり、テーマそのものよりも曲の美しさが前面に出ているのです。
独自性の発揮

本作には独自の試行もたくさん見られます。
一番大きいのは、ワルツを登場させたことです。
彼以前の交響曲を見ても、ワルツの楽章はほとんどありませんでした。
そのほか、全曲を一貫したモチーフが特徴的です。
はじめのクラリネットの序奏が、あらゆる所で…
4楽章に至っては長調に転じて登場するのです。
これらの独創性は、初演の際あまり好意的に受け入れられませんでした。
そのため、チャイコフスキー自身も否定的なイメージを持ちました。
当初は「スコアを火に投げ込みたい」と手紙に書いたほどでした。
しかし、3年後の1892年に再演を行ったところ、高く受け入れられたのです。

曲の特徴
第1楽章 曲を支配する運命主題

(序奏) ※古い音源なので聴きづらいかもしれません!(以下同様)
(主部)
Clの暗い旋律…この交響曲全体を支配する旋律です。
よく「運命主題」と言われています。
(ただし、第4番と違ってあくまでも通称です)
主部は Allegro con anima, 6/8拍子。
弦楽器の、暗い雪道を踏みしめて歩くようなリズム。
そこに、Cl,Fgの幽玄な調べが奏でられます。
展開部は、これらのモチーフの反復から成り立っています。
ひとつのモチーフをとても効果的に展開させる、チャイコフスキーならではの作風です。
また、”con anima”から分かるように、暗いながらも動きのある楽章です。
心地よいテンポ感が曲全体の流れを作っているのです。
第2楽章 最も美しい旋律と劇的な展開

冒頭のHr…甘美、哀愁をもち、憧れを歌うかのよう。
続くObとHrによる対話は、慰めのような明るさを感じます。
人によっては可愛らしさを感じるかもしれません。
しかし中間部では、運命主題を思わせる劇的な展開を見せ、一時的に緊張感が高まります。
最後には、希望を打ち砕くかのような強奏も。
その後は再び穏やかな雰囲気に戻り、美しくも切ない旋律が繰り返されながら静かに収束していきます。
第3楽章 夢心地のワルツ

通例はスケルツォやメヌエットですが、本作はワルツで置き換えられています。
まるで夢のなかを遊ぶよう。
コンセプト的には、第4番の第3楽章と似ているかもしれませんね。
コーダでは第1楽章のモチーフが現れ、夢を現実に引き戻すような感があります。
第4楽章 悲観を超えて、強く前へ

(序奏)
(主部)
悠然たる序奏。
第1楽章の暗いモチーフが、ここでは希望のような長調になるのです。
主部はAllegro vivace。
チャイコらしい豪華なシーンの連続。
嵐のような合奏、優美な木管の主題が続きます。
最後、コーダではプレストとなり、金管によるファンファーレの熱気で幕を閉じます。
一連を通して、悲哀に打ち勝つ強い気持ちが表現されています!
バイオリン弾きの視点
※アマチュアの人が休日や部活動で弾くことを想定しています。
バイオリニストとしての印象は、何といっても体育会系なこと!!
とにかく体力を要します。


それから、拍のクセを感じることが重要です。
3楽章のワルツはもちろん、1楽章の主部も6/8拍子。
こういった拍子の強い曲で大切なのは、正拍の方向性をしっかり感じること!
自分自身が裏拍から弾き始める時も、正拍の向かい方を捉えることが重要です。
なお、技術難度はそこそこ高いですが、チャイコ3曲のなかでは一番取っつきやすいと思います。

まとめ
- よりバランスの取れた美しい交響曲
- 適度に織り交ぜられた標題性
- 技術難度は高いが、クセがなく取り組みやすい!
本作はチャイコフスキーのなかでもとりわけ親しみやすい名作です。
西欧の構築美、そして「運命主題」を通した感情表現…
これらが奇跡のバランスとなって、聴く人に感動を与える曲です。
ぜひ機会があればお楽しみください!