【「傑作の森」の活力あふれる作品!】ベートーヴェン/交響曲第4番 解説

  • ベートーヴェンの第4番はあまり聞いたことがないけれど、どんな曲なのだろう?
  • 弾くにあたって時代背景を知っておきたい!

ベートーヴェンの交響曲第3番『英雄』、第5番『運命』は有名な曲ですね。

実は、その間に位置する交響曲第4番も、とても魅力的な曲なのです。

後世のメンデルスゾーンは、ベートーヴェンの交響曲第4番が大好きで自筆譜を持っていたほどです。
シューマンもまた、同じように絶賛しています。

 
クロ(筆者)
筆者も、第4番の活気あふれる曲調が大好きです!

この記事では、バイオリン歴35年以上・コンクール入賞歴ありの筆者が、ベートーヴェン・交響曲第4番について紹介します。

第4番の魅力は、どのような所なのか。
当時のベートーヴェンの心境になにが起こっていたのか。
これらのバックストーリーを簡単に解説したうえで、この曲の聴きどころや演奏面についても紹介していきます。

簡単な概要まとめ

  • 「傑作の森」と言われる、実力・名声ともに高かったときの作品
  • 多くのパトロンが付き、作曲環境に恵まれていた
  • ほかの交響曲の影響を強く受けている
  • 推進力と統一感を両立させる仕掛けがたくさんある

作曲背景・・・ ベートーヴェンの人生でもっとも充実した時期

交響曲第4番が作曲されたのは1806年。ベートーヴェンが36歳のときです。

この時期の彼の作品群は、「傑作の森」と言われています。
作られた曲はどれも完成度が高く、また彼自身もかなり意欲的に作曲を行っていました。

「傑作の森」には、他にも次のような曲があります。

  • バイオリン協奏曲
  • ピアノソナタ『月光』『熱情』
  • 弦楽四重奏曲第7~9番『ラズモフスキー』
  • 歌劇『フィデリオ』
 
クロ
1~2年でこれだけの名曲を生み出していることに敬服します!

なぜ、ベートーヴェンの作曲意欲はここまで高かったのでしょうか?

それには、いくつかの理由があると言われています。

遺書を書いてまで、音楽のために生きる決意をしたから

ベートーヴェンは耳の聴こえない作曲家として有名です。

彼は、交響曲第4番のおよそ6年前(1802年)に、難聴による苦しみのあまり自殺を考えました。
彼は「ハイリゲンシュタットの遺書」という文筆を残しています。

しかし、ベートーヴェンはこの遺書のなかで、生きることを選びました。

「自分の内にある芸術という使命を果たすためだけに、苦難に耐えて生きることにする。」

ベートーヴェンは音楽への想いだけはとても強かった。このことが、彼の自殺を思いとどまらせたのです。

以後、ベートーヴェンは遺書に宣言したとおり、彼の唯一の世界となった芸術に打ち込んでいきました。

この「音楽のためだけに生きる」決意が、のちの数々の傑作を生み出すエネルギーになっています。

※ハイリゲンシュタットの遺書については、交響曲第3番『英雄』の記事で紹介しています。
興味があればご覧ください。

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複数のパトロンが、彼の音楽環境を充実なものにしていたから

この頃のベートーヴェンには、意識せずとも作曲に打ち込めるだけの十分な環境がありました。

理由として、彼は複数のパトロン(後援者)から金銭的支援を受けていたからです。

それだけでなく、パトロン達はみな音楽好きで、ベートーヴェンのために高価な弦楽器やピアノを贈呈していたそうです。

彼の人間関係も非常に充実していたから

この頃の彼の人間関係はとても充実していました。

  • イグナーツ・シュパンツィヒ(史上初のプロの弦楽四重奏団を結成)
  • ヨゼフィーネ・ブルンスヴィック(ベートーヴェンの「不滅の恋人」と言われる)
  • 弟子のフェルディナント・リース

このような交友・恋愛関係を通じて、人間的にも音楽的にも成熟していったと言われています。

総括すると、交響曲第4番は、ベートーヴェンの人生でとても充実した時期の作品です。

曲の特徴

ほかの交響曲(第2番・第5番)の影響を強く受けている

交響曲第4番の大きな特徴として、ほかの交響曲の影響を強く受けています。

理由はその作曲経緯にあります。

交響曲第4番は、もともと「オッペルスドルフ伯爵」からの依頼がきっかけで、作曲されました。

オッペルスドルフ伯爵は、ベートーヴェンの交響曲第2番が大好きで、宮廷お抱えのオーケストラにもよく演奏させていたそうです。

そのため、ベートーヴェンは交響曲第4番を作るとき、このオーケストラの編成に合わせて作曲しました。
実際、前作『英雄』よりも編成がかなり縮小しており、フルートは1本、その他の管楽器も2本のコンパクトなものになっています。

譜面についても、第2番と第4番は似通ったところがあります。
(一例)

また、第4番は、第5番「運命」との共通点も多くあります。

というのも、ベートーヴェンはもともと第5番・第6番の構想を先に進めていました。
しかし、構想中にオッペルスドルフ伯爵からの依頼があったため、割り込む形で第4番を作曲したのです。

そのため、第4番と第5番は共通の要素が見られます。たとえば冒頭の音型です。

何を想ってこの主題を取り入れたのか・・・色々イメージできそうですね。

このように、第4番はほかの交響曲、特に第2番・第5番との交わりが強いです。

 
クロ
第2番や第5番を知っている人には、より親しみやすいかもしれません!

推進力と統一感を両立させている

交響曲第4番のもうひとつの特徴が「推進力」「統一感」を両立させている点です。

理由としては、次のものが考えられます。

  • 上昇音型が非常に多い・・・推進力やエネルギーをもたらす
  • 分散和音がさまざまな主題に現れる・・・曲全体の統一を図っている

このため、交響曲第4番は、活力がありつつも、全体的に整っているのが特徴です。

第1楽章

Adagio molto – Allegro con brio
~きわめてゆるやかに - 快速に、活気をもって~

序奏がとても印象的です。
何も起こらない、空虚を感じます。
前述したように、第5番の冒頭と共通した音型です。
何を思い、この虚ろな場面を創ったのか・・・想像が膨らみます。

しかし、途中から活力を帯びていき、ほどなく明るい主題に移り変わります。
第一主題、第二主題ともに分散和音で構成されています。実は序奏も分散和音ですね。
こうした統一性があるためか、前向きなのに格調高さも感じられます。

第2楽章

Adagio
~ゆるやかに~

田園的。
第1楽章のAdagioとはまったく異なり、のんびりしています。

特に、クラリネットが活躍する楽章で、息の長い旋律が特徴的です。

また、最後のティンパニーによる主題の反復も印象的です。
おそらくティンパニーによる独奏は、過去の作品を見ても珍しかったのではないでしょうか。

第3楽章

Allegro vivace – Un poco meno Allegro
~快活に速く - (トリオは)少し遅く~

メヌエットとトリオが交互に現れる楽章です。

通常は、メヌエット2回の間にトリオが1回挟まれますが、この楽章はなんとメヌエット3回の間にトリオが2回挟まれています。ダブルサンドウィッチです。

そのため、単なる間奏曲としての位置づけではなく、とても充実したものになっています。

第4楽章

Allegro ma non troppo
~快速に、ただし甚だしくなく~

上昇音型がメインの、とても活気に満ちた最終楽章です。

まるで喜びの感情が抑えきれないかのよう。

ちなみに、時々めちゃくちゃ早い音源を見かけますが、速度指定は「甚だしくなく」なのです。
指揮者のわがままなのか、演奏者が勝手に速くなってしまったのか・・・(笑)

 
クロ
あまりに速くすると、後でファゴット奏者が大変なことになります・・・
(この楽章のファゴットには激ムズシーンがあります)

演奏難易度(バイオリン)

※1stバイオリン、2ndバイオリンを基準としています。
 なお、アマチュアの人が休日や部活動で弾くことを想定しています。

技術難度はけっこう高いです。
1st・2ndともに十分な基礎技術と指回りが求められます。特に4楽章。

また、弾けたとしても、音型的に走りやすい(=指揮よりも速くなりやすい)です。
がんばって自分を律しましょう。
特に4楽章の16分音符ゾーンは、気が付くと爆★速★になりがちです。
あまりに速いと後でファゴットに怒られるので気を付けましょう(笑)

音量バランスにも気を配る必要があります。
この曲は、楽器間のメロディーの受け継ぎが多く、さらに管楽器のソロも多いです。
また、管の編成が小さく、フルートは1本、ホルンは2本しかありません。
いつも以上にバランスに気を付けましょう。

一方、音程やハーモニーに関しては、比較的シンプルです。
前作の第3番『英雄』よりもやりやすいと思います。

まとめ

  • 「傑作の森」と言われる、実力・名声ともに高かったときの作品
  • 人間関係も非常に充実していた
  • ほかの交響曲の影響を強く受けている
  • 推進力と統一感を両立させる仕掛けがたくさんある

この時期のベートーヴェンは、あの有名な運命交響曲や、ラズモフスキー四重奏曲など、素敵な作品を他にたくさん書いています。

弾き手としても、聴き手としても、機会があればぜひ色々な曲にチャレンジしてください!