【若さとエネルギーに溢れた音楽!】メンデルスゾーン/弦楽八重奏曲 解説

  • メンデルスゾーンの弦楽八重奏って有名だけれど、改めてどんな曲なんだろう?
  • 部活動の8人で弾きたいけれど、ぶっちゃけ難しい?

弦楽八重奏曲という編成は珍しく、その中ではこのメンデルスゾーンの作品がもっとも有名で、演奏機会も多いです。

小交響曲の趣がある弦楽器だけの室内楽編成で、メンデルスゾーンの素直でまっすぐなエネルギーを感じられます。
聴くのはもちろん、8人集まったらぜひ演奏にもチャレンジしてほしいです。

タクマ(筆者)
広い音の世界を駆けめぐるかのような活力を感じます!

この記事では、バイオリン歴35年以上・コンクール入賞歴ありの筆者が、メンデルスゾーンの弦楽八重奏曲について紹介します。

この弦楽八重奏曲の魅力は、どのような所なのか。
当時のメンデルスゾーンはどんな環境で育ったのか。
これらのバックストーリーを簡単に解説したうえで、この曲の聴きどころや演奏面についても紹介していきます。

簡単な概要まとめ

  • スケールが大きく、完成度が高い 習作とは思えない
  • 交響曲の立体的な響きと、室内楽の機動力の高さを併せもつ
  • 16歳のほとばしるような情熱の波
  • 演奏するときはメリハリが重要

作曲背景

16歳という若さで作られた曲

この曲は、1825年…メンデルスゾーンが16歳のときに作られました。

とんでもない若さですよね。エネルギッシュな曲調からも、彼のみずみずしさを感じます。

彼は生涯でたくさんの室内楽曲を書きましたが、この曲は初期作品です。なんと弦楽四重奏曲第1~6番よりも前に作られました。

とても短い期間で、習作のひとつとして書いたようですが、そうは思えないほど完成度の高い作品です。

この曲は、当時のバイオリン教師、エドゥアルト・リーツへのプレゼントとして捧げられました。

両親による英才教育

メンデルスゾーンの両親は非常に厳しく、彼に英才教育を施しました。

朝は5時に起こされ、身なりを整えるとすぐに机やピアノに向かわされました。

勉強としては、母国語・英語・フランス語・数学など。

ピアノについては、母親がプロ並みのピアニストであり、メンデルスゾーンが4歳のときから手ほどきを受けていました。
長い時には8時間もピアノを弾いていたそうです。

また、作曲も習っており、なんと11歳で難しい対位法に取り組んでいたそうです。

現代の子供もびっくりな教育ぶりですよね・・・

両親の熱心な教育のかいもあり、彼は勉学・音楽の両面でめきめきと力をつけました。

とくに音楽に関しては母親も目を見張る才能があり、周囲からは「神童」「第二のモーツァルト」と呼ばれていたそうです。

彼が16歳という若さで弦楽八重奏というジャンルを開拓できたこと。また、その完成度が異様に高かったことの理由は、間違いなくこの英才教育のおかげでしょう。

恵まれた音楽環境

メンデルスゾーン一家はとても裕福で、彼の作曲にも大きな影響を与えました。

父親のアブラハムは、兄弟と共同で銀行を経営しており、豊かな人脈財力を持っていたからです。

父親の人脈により、メンデルスゾーンは12歳のとき、かの有名な文豪ゲーテと親しくなり、啓蒙を受けることができました。

また、当時有名だった音楽家ツェルターに作曲の手ほどきを受けることもできました。

これだけでも彼の作曲能力はすごいことになりそうですが、まだあります。

彼は自分が書き上げた作品をすぐに演奏できる場があったのです。

彼の家は4~5世帯はゆうに暮らせるほどの邸宅で、週に1回「日曜演奏会」を開いていました。
規模は大きく、パガニーニやウェーバーも集うものでした。

弦楽八重奏曲の初演もこの「日曜演奏会」で行われ、メンデルスゾーン自身が2ndバイオリンを担当しました。

また、弦楽八重奏曲以外にも、1年間で弦楽合奏曲を6曲、協奏曲を5曲、オペラを1作、合唱曲を7曲披露したのです。

彼自身、勉強のスケジュールがびっしり組まれている合間にこれほど多くの作品を書くというのは尋常ではありません。

彼の類まれなき努力・才能、そして恵まれた音楽環境によって、彼は16歳にしてすでに円熟した音楽家となったのです。

ここまでの作曲背景をまとめるとこうなります:

  • 両親による英才教育があった
  • 母親はプロ並みの腕をもつピアニストだった
  • 父親の人脈により、文豪や音楽家から啓蒙を受けた
  • メンデルスゾーン自身も類まれなき努力家だった
     
  • ⇒これらの結果、16歳という若さで弦楽八重奏曲を作れる実力がついた

曲全体の特徴

全体・・・交響曲と室内楽の要素をあわせもつ作品

弦楽八重奏曲の自筆譜に、メンデルスゾーン自身による注記があります。

「この八重奏曲は、どのパートも交響曲のスタイルで演奏されなければならない。」
「ピアノとフォルテを極めて正確に、はっきりと区別し、他の譜例以上に際立たせなければならない。」
これらの注記は、曲を聴くうえでも、演奏するうえでも、とても重要です。
この曲は、バイオリンからチェロまでの8声部があるため、響きが立体的で複雑に聴こえます。
一方で、パート間の主題の受け渡しや、対位法の処理に工夫がされています。各パートが全体の響きに埋もれてしまうことがなく、機動的に聞こえるのです。
いわば交響曲と室内楽曲のいいとこ取りをしているのです。
(ただし、このように聴かせるためには、後半の注記にあるようにメリハリのついた演奏が必要になります)

第1楽章

Allegro moderato con fuoco
~ほどよく快速に 火のように生き生きと~

ほとばしるような情熱の波を感じます。

内声のさざ波、低弦のシンコペーションに誘われ、1stの活気的な上昇音型で幕を開けます。

この音楽の熱は1楽章を通して冷めません。

展開部でややダークな雰囲気が流れるも、温度感は熱いまま、再現部・コーダでは再び活動的になります。

第2楽章

Andante
~歩くように~

ハ短調ではあるが、とても慈しみ深い音楽です。

8分の6拍子が、ややシチリアーノ風をかもしだしています。

彼と親交の深かったゲーテの言葉を借りるなら、「憎しみ」「愛」を伴うものでしょう。

第3楽章

Scherzo: Allegro Leggierissimo
~スケルツォ:快速に、きわめて軽く~

ゲーテの「ファウスト」から着想した楽章です。

「ファウスト」のとおり、夜のブロッケン山にあらゆる魔女や妖怪たちが寄り集まり、奇怪な宴を繰り広げるさまが浮かびます。

ppのスタッカート、稲妻のようなトレモロやトリルで表現されています。

第4楽章

Presto
~急速に~

壮大なフーガの終楽章。

楽章とおして、あふれんばかりのエネルギー。

終盤には、師ツェルターから手ほどきを受けた対位法が堂々と描かれています。

演奏難易度(バイオリン)

※バイオリンを基準としています。
 なお、アマチュアの人が休日や部活動で弾くことを想定しています。

この曲を弾ける人が8人揃うだけでもすごいので、積極的にチャレンジしてほしいです。

1stVnはかなり技術力がいる

1stVnはかなりの技術力が必要です。バイオリン協奏曲よりも難しいかもしれません。

ソロを張れる胆力も必要です。

その他のパートについては、奇数パート(3rdVn,1stVa,1stVc)にメロディーが多いです。

偶数パート(2ndVn,4thVn,2ndVa,2ndVc)はハーモニーが多め

メリハリが超重要

この曲は明瞭に聴かせるのが難しいです。

メンデルスゾーンの注記をしっかり守り、pとfの区別を付けること。

そして、だれがメロディーを受け持っているのか把握すること。

さらに、埋もれやすいパートがメロディーのときに、自分はいつもより抑えるなど、柔軟な対応ができるといいですね。

タクマ
情熱だけで弾くと、残念ながらとてもゴチャゴチャして聴こえます…

情熱さ・スマートさを両立した演奏ができるといいですね!

まとめ

  • スケールが大きく、完成度が高い 習作とは思えない
  • 交響曲の立体的な響きと、室内楽の機動力の高さをうまく合わせた
  • 16歳のほとばしるような情熱の波
  • 演奏するときはメリハリが重要

16歳の青年の青春のごとき、エネルギーあふれる曲。
しかし同時に、16歳が書いたとは思えないほど完成された作品です。

聴くのはもちろん、弾き手としても、機会があればぜひチャレンジしてください!