【やっぱり故郷はいいよね】ドヴォルザーク/弦楽四重奏曲第13番・第14番 解説

弦楽四重奏曲第13番・第14番は、ドヴォルザークがアメリカ滞在で精神疲労を起こしたあと、故郷に帰って心の回復とともに書かれた曲です。

故郷ボヘミアの空気をたっぷり味わうかのような曲調。そして晩年のドヴォルザークによる円熟した技法です。

2曲とも知名度は低いかもしれませんが、素晴らしい名曲なのです。
個人的には、前作の第12番「アメリカ」と同じくらい有名になってほしいです。

この記事では、バイオリン歴35年以上・ビオラ歴ありの筆者が、ドヴォルザーク/弦楽四重奏曲第13番・第14番について解説します。

これら2曲にはどういったバックストーリーがあるのか。魅力の源泉はどこなのか。
これらを簡単に解説し、聴きどころや演奏面についても紹介していきます。

スポンサーリンク

簡単な概要まとめ

  • 渡米、そして音楽院校長としての忙しい日々
  • 精神的心労によるホームシック
  • 故郷ボヘミアでの静養、そして回復

ドヴォルザークの人物像

故郷での音楽教育の影響

まずは彼の人物像を紹介します。

ドヴォルザークは、チェコの北ボヘミアにある農村出身です。

当時のボヘミアでは、農村の音楽教育がとても盛んでした。
ドヴォルザークの旋律にボヘミアの民族性を感じるのは、この故郷で受けた音楽教育が源泉だと言われています。

彼は農村でバイオリンを習い、のちにその技術が認められて音楽家として歩んでいくことになります。

社交的で親しみやすい性格

青年期以降のドヴォルザークは、社交的な性格でした。

理由は、彼がもともと音楽家ではなく「肉屋兼旅館の後継ぎ」として育てられたためと言われています。
常に他の村々との交渉を見ており、また彼自身もたくさんのコミュニケーションの機会があったのでしょう。

彼はまた、愛妻家としても有名です。

愛妻アンナと6人の子宝に恵まれ、円満な家庭を築きました。
彼の温かく親しみやすいメロディーには、穏やかな性格、その裏に隠された沢山の苦労が礎となっているのでしょう。

ほかにも、鉄道好きなことが挙げられます。

作曲で悩んでいるときは、葉巻を1本くわえ、火をつけて汽車を見に出かけていました。
汽車のことなら、型でも時刻表でも実によく知っていて、汽車を眺めて帰ってくる頃には口笛を吹いていたそうです。

素敵な趣味ですね。
このためか、彼の音楽には、鉄道の走る音をモチーフにしたような音型がたくさんあります。

弦楽四重奏曲第13,14番のバックストーリー

ニューヨークの音楽院の校長としての忙しい日々

晩年のドヴォルザーク(51歳)は、ニューヨークにあるナショナル音楽院の校長職として、アメリカから招待を受けました。

このアメリカ滞在中に、彼は交響曲第9番「新世界より」をはじめ数々の名曲を生み出しました。

実際の音楽院での仕事は、とても忙しかったようです。
彼は、作曲以外にも、週3回の授業を担当し、週2回は学生オーケストラを指揮しました。

そして何より彼は大都会の雰囲気に圧倒されたようです。

「ニューヨークはほとんどロンドンのような巨大な町であり、生活は朝から晩まで、とおりもまたひじょうにさまざまな様相を見せながら、生き生きとして活気に満ちている。」

ホームシック、望郷の念

彼は渡米3年目に、重度のホームシックに掛かってしまいました。

農村出身のドヴォルザークにとって、大都会の喧騒はあまりにも落ち着かなかったのです。

また、プレッシャーによる精神的心労も重なっていました。彼は、音楽院からの期待はもとより、新聞にもその活躍ぶりを取り上げられていたからです。

重度のホームシックと望郷の念により、彼は作曲に手が付かなくなってしまいました。

このとき、弦楽四重奏曲第14番の作曲にも取り掛かっていましたが、1楽章の導入部と提示部のみ作られた後、放置されてしまいます。

故郷ボヘミアでの回復、第13,14番の作曲

音楽院創立者のサーバー夫人は、ドヴォルザークの体調を案じ、アメリカ滞在の契約を早めに終了させてくれました。
このときのドヴォルザークは、天にも昇る思いだったといいます。
彼は約3年の任期を終えて、故郷ボヘミアに戻りました。
故郷ボヘミアの新鮮な空気を吸い込み、温かい人々に囲まれたドヴォルザーク。
彼は、数か月の療養ののち、作曲を再開しました。
アメリカ滞在中に放置した弦楽四重奏曲よりも先に、別の弦楽四重奏曲を新しく作曲しました。
おって、放置していた弦楽四重奏曲も完成させました。
こうして完成したのが、弦楽四重奏曲第13番・第14番なのです。
 

曲の特徴

弦楽四重奏曲第13番

この曲は、全40分超

前作の弦楽四重奏曲第12番「アメリカ」は全25分なので、1.5倍~2倍はありますね!

全体的には、楽想・アイデアが次から次へと出てくる充実した曲です。

無事帰国できて、安堵の気持ちとともに創造力も回復したのでしょうか。

曲調は、ボヘミア感たっぷり。

アメリカ時代の特徴的表現(アメリカ民族音楽の引用など)は破棄されています。

1,3,4楽章は幸福感のあるメロディーが多いです。

一方、2楽章は重々しいシーンも目立ちます。実は、ドヴォルザークが帰国した年に義姉が亡くなっており、彼女を悼む想いによるものとも言われています。

また、それまでに比べると楽器の取り扱いがとても複雑です。

たとえばチェロにトレモロを弾かせたり、重音が多かったり、転調を多用していたり・・・

ドヴォルザーク自身のあふれだす創作力だけでなく、さまざまな経験が積み重なった曲といえるでしょう。

弦楽四重奏曲第14番

こちらも、全35分と長めの曲です。

全体的には、ドヴォルザークらしさが詰め込まれた曲で、聴いていて楽しいと思います!

2楽章の民族音楽的な拍子感。
3楽章の内的な幸福。
4楽章の汽車のようなリズム・・・

このように、彼ならではのモチーフがたくさん入っています。

一方、1楽章の冒頭の雰囲気だけはとてもシリアス。

暗闇のなかをさ迷い、ようやく提示部で希望を見出すようなシーンです。

この冒頭部分のみアメリカ滞在中に描かれています。

演奏難易度(バイオリン)

※1stバイオリン、2ndバイオリンを基準としています。
 なお、アマチュアの人が休日や部活動で弾くことを想定しています。

この2曲、聴くと分かるかもしれませんが、すごく難しいです。

アメリカの10倍は難しい。個人的にはブラームスよりも難しい。

一番大変なのは音程・ハーモニーです。理由は、調性がトンデモないから。

たとえば第14番の冒頭(下の譜面)。フラット7つのas-mollです。
つまり全部フラットです。意味が分かりません(笑)

提示部になってもフラット4つなので、変わらず難しいです。

また、第13番の2楽章(下の譜面)も、一見フラット3つですが、実際は臨時記号などによりフラット6つのes-mollという超難しい調性です。
(しかも曲中でEs-durと交互に転調していきます)

さらに、この2曲は技術的にも大変なので、結果的にハーモニーまで手が回らなくなりがちです。

バイオリンも難しいほうですが、それ以上にチェロが難しいです。
「これバイオリンかビオラでいいじゃん」な高音メロディーや、謎の高速トレモロがありますからね・・・

チェロが上手で、かつお互いの音程感覚が分かった熟練チームで弾くのをおすすめします!

まとめ

  • 渡米、そして音楽院校長としての忙しい日々
  • 精神的心労によるホームシック
  • 故郷ボヘミアでの静養、そして回復

晩年のドヴォルザークが書いた弦楽四重奏曲第13番・第14番を紹介しました。

彼のルーツとなるボヘミア音楽、そして円熟した技法を味わいたいなら、この2曲は本当におすすめです!

聴くのはもちろん、弾く機会があればぜひ堪能してください。

スポンサーリンク