今回は、メンデルスゾーン後期の弦楽五重奏曲をご紹介します。
彼の弦楽五重奏は2曲ありますが、ともに隠れた名曲です。
この第2番は、晩年…フランクフルトでの静養中に書かれました。
とても充実した曲調で、これまでのさまざまな経験が表れているようです。
この記事では、バイオリン歴35年以上・コンクール歴ありの筆者が、弦楽五重奏曲第2番の特徴を紹介します。
簡単なまとめ
- 後期作品
- フランクフルトでの静養中に書かれた曲
- 華やか 活力を回復しているかのよう
- 古典派寄りの前作に対し、本作はロマン派の雰囲気を楽しめる
メンデルスゾーンの人物像

メンデルスゾーンは、1809~1847年に活躍しました。
とても短命の作曲家です。
時代としては、古典派の終わり~初期ロマン派に位置します。
音楽の基礎・形式を重視しつつ、より自由な表現を目指した時代です。
彼は早くから名声を獲得し、20代前半にしてヨーロッパ中に名を轟かせました。
各王族からも一目置かれていたのです。

弦楽五重奏曲第2番の作曲背景
晩年…多忙による疲弊

本曲は36歳で作られました。晩年作です。
30代というと若く聞こえますが、実は死の2年前です。
晩年の彼は、多忙を極めていました。
一番大きな理由は、ライプツィヒ音楽院の設立です。
この設立は、プロイセン王の依頼によるものでした。
王は、音楽学校の新設や教会音楽の刷新などを含めた改革の先頭に、メンデルスゾーンを立てたいという意向があったのです。
メンデルスゾーンははじめこの依頼を断ろうとしました。
しかし、プロイセン王から下記の見返りを約束され、仕方なく引き受けました。
- 今後の財産・地位の保証
- ベルリンでの演奏会の開催
- 学校基金の支給
しかし、学校基金が実際に準備されることはありませんでした。
このため、音楽院の教育環境は劣悪で、学生からのクレームが絶えませんでした。
しかも、メンデルスゾーンが宮廷との間に交わした財政、地位、演奏会予定などの約束は守られなかったのです。

(メンデルスゾーンはユダヤ人の血を引いていました)
この音楽院をめぐる騒動で、メンデルスゾーンは大きく疲弊してしまいました。
母親レアの死

メンデルスゾーンを疲弊させたのはこれだけではありません。
母親レアの死も、さらに打撃を与えました。
レアは、メンデルスゾーンが4歳のときからピアノを教えていました。
彼が独立したあとも、度重なる文通を通じて家族愛を深めていました。
そんな母の死は、彼を一段と憔悴させてしまったのです。
フランクフルトでの静養、本曲の執筆


メンデルスゾーンの体調は目に見えて悪化しました。
彼だけでなく、妻も疲れ切り、子供も病み上がっていました。
36歳のとき、彼は静養のためにフランクフルトに移りました。
いくつかの楽団との契約も打ち切り、もう公的な場に出るのはやめようとも考えていました。
静養は彼に、精神的回復と、集中した作曲の場を与えてくれました。
この間、友人でバイオリニストのフェルディナント・ダヴィッドが訪れました。
メンデルスゾーンのバイオリン協奏曲の初演について語ったり、彼の作品を演奏したりしました。
精力の回復期だった彼は、良い意味で触発されました。
弦楽五重奏曲第2番は、この静養中に作曲されたのです。
曲の特徴
充実感、力強さを感じる曲です。
バイオリン協奏曲の後ということもあり、冒頭からメロディーの躍動感があります!
それだけではなく、ほかのパートにも出番が多いのが特徴です。
初期に作られた第1番は、とても穏やかで温かい光に包まれているよう。
一方、この第2番はスケールが大きく、色彩も豊かです。
ふたつの作品を聴き比べる・弾き比べるのも面白いですね!
第1楽章

↑古い録音のため聴きづらいかもしれません!(以下同様)
ゴージャスな幕開けです!
バイオリンによる華やかな上昇音型の第一主題。
ビオラから始まる甘い下降音型の第二主題。
これらの対比が繰り返されて、豪華絢爛な音楽が繰り広げられます。
第2楽章

彼の十八番のスケルツォだが、ちょっと甘くユーモラスな雰囲気です。
しかし、これは少し大人びた感じ…
人生経験を積んだ変化なのでしょうか。
第3楽章


哀愁を帯びたアダージョ。
衰弱、燃え尽きた感情を反映させたといわれています。
母の死や仕事の責任に追われ、疲れてしまった…
そんなメンデルスゾーンの心境だからこそ書けたのかもしれません。
中間の32分が印象的。
ベートーヴェンでいうところの運命…避けがたい観念を感じます。
第4楽章

華やかな終楽章。
疾走感あふれる、快活なビバーチェです。
まるで、心折られても立ち上がる意志のようですね!

バイオリン弾きの視点
※アマチュアの人が休日や部活動で弾くことを想定しています。
かなり歯ごたえのある曲。
しっかりした技術と、何よりエネルギーが必要です!
技術面では、特に1stバイオリンが技巧的。
メンコンの影響を受けているのか、ヴィルトゥオーゾ感がありますね。
1st以外も音符が多いです。

アンサンブル面では、音程、曲の運び方に注目したいです。
特に、下のパートのテンポの運び方をしっかり聴きたいです。
一方、噛み合わせはわりとシンプルです。
技術力が十分にあれば形にはなるが、それでも音程感や拍感が難しい曲。
そのため、お互いに慣れた人とやるのが良いと思います!
1→2とチャレンジするのもいいかもしれませんね!
まとめ
- 後期作品
- フランクフルトでの静養中に書かれた曲
- 華やか 活力を回復しているかのよう
- 古典派寄りの前作に対し、本作はロマン派の雰囲気を楽しめる
メンデルスゾーンの静養はつかの間のことでした。
彼は結局、ライプツィヒでの忙しい日々に戻ります。
この後、彼の人生の歯車は止まりません。
数年後は姉ファニーの死をきっかけに狂っていくのです。
本曲は、そうなる前…最後の穏やかな時期の音楽なのです。
ぜひその充実を味わってください!