- オブリガートってよくガット弦のようだと言われるけど、実際はどうなの?
- どんな奏者に向いている?
オブリガートは、誰もが聞いたことのある弦だと思います。
しかし、細かい特徴を紹介している人はほぼいません。内声向けの弦はどうしても話題にされづらいからです。
私は、約35年のバイオリン人生の中で、オブリガートを15年以上使ってきました。
オケマンや室内楽奏者には強くおすすめしたいし、一度は触ってみてほしい弦です。
この記事では、バイオリン歴35年以上・コンクール入賞経験ありの筆者が、オブリガートの特徴や弾きごこちなどを詳しく紹介・レビューします。
この記事を読むと、オブリガートの音色、寿命、相性のよいプレイヤーなどが分かります。
簡単な長所・短所まとめ
- 木の幹のように太い音
- 輪郭が分かりやすく、音を捉えやすい
- 張ってから馴染むまでがとても早い
- 劣化が遅い
- 明るい曲、コンマスソロなどでは埋もれやすい
- 張力が強くて初心者には不向き
- やや高い
コンセプト・・・ エヴァピラの対比弦。ガット弦の美しさを追求している
ピラストロ社の公式ページでは、このように書かれてあります。
「オブリガートは、ガット弦の美しい音色を保ちつつ、ガットの弱点であった不安定さを改良しました。」
ガット弦は、ナイロン弦やスチール弦とは比べ物にならないほど芳醇な響きですが、チューニングが安定せず、取り扱いが難しいです。
オブリガートは、ナイロン弦でありながらも、このガット弦の音色に可能な限り近づけて作られた弦です。
エヴァピラとオブリガートは、ともにピラストロ社の弦です。
オブリガートは、エヴァピラのパワフルさと対をなすように意識して作られました。
公式ページではこう書かれています。
「エヴァピラッツィが非常に集中的で、ソリストに最適な弦である一方、オブリガートは、暖かく広がるサウンドでありながら、豊かな倍音と焦点の合ったトーンを持つ弦です。」
オブリガート=ガット弦の美しさを重視した弦
という整理になります!
音色・・・ 木の幹のように太く暖かい音
オブリガートの特徴は上の画像のとおりです。
総括すると、まるで木の幹のように太くしっかりした音です。
- 暖かい色彩
空気のあたたまるような、心地よい色味。
内声でのハーモニー作りがとてもやりやすいです。暖かい音色は、それだけで周囲に溶けやすいからです。 - クセのない質感
雑味はなく、他方でクリーンすぎない音質。
良い意味で、柔らかくてクセのない聞きごこちです。 - 焦点の定まった音
ピントが定まった音。視力で例えると1.0はある。
速いパッセージも細部まで聞こえます。
※本来、ピントの強い弦は落ち着いた音が苦手です。しかしオブリガートはその限りではありません。
音色の暖かさや柔らかさが、ピントの強さをうまく包んでくれるからです。
相性のいい奏者は、オーケストラ・室内楽奏者。
なかでも内声にうってつけ。
特に緩徐楽章でのハーモニー作りに最高です。
他方、ピントが定まっているため、技巧的なシーンでも対応しやすいです。
サロンコンサートにも合うと思います。
逆に惜しい点は、輝く音を出したいときや、トップソロがあるとき。
この弦は、ハッと目を引く音が苦手で、若干埋もれやすいです。
また、後述しますが、張力が強いので頑張るほど逆に力みやすいです。
プロの演奏家では、ドイツのトップカルテット、ヘンシェル四重奏団が使用しています。
張力、操作性・・・ 張力はやや強い。操作性はバツグン
オブリガートの張力はやや強めです。
- メリット:
- 輪郭がわかりやすい ⇒ パリッとして弾きやすい。芯がある。
- つぶれにくい ⇒ 深くて厚い音量が出せる。
- デメリット:
- 力みやすい ⇒ 適切な力のコントロールが必要。初心者には向かない。
なお、E線の張力が目立ちますが、参考程度でよいと思います。工房の方に聞いたことがありますが、細い弦ほど精密に測っても誤差がひどいようです。
ちなみに私は、オブリガートのE線で指が痛くなったことはありません。(人によると思いますが)
オブリガートの操作性は良好です。
速弾きしやすい。適度な弾力性により指回りもラク。
この弦だと弾けない!という曲は無いです。だいぶ昔ですがブラコンもオブリガートで無事に弾けました。
ランニングコスト・・・ ★★☆☆☆(長持ちだが高い)
- 本番で使うなら ⇒ 3か月以内
- 練習するだけ ⇒ 4~6か月程度
※現在の筆者の演奏時間は、平日30~1時間程度、休日1~3時間程度です。
もっと弾く方や、音大生、プロの方はこれより短くなると思います。
値段:2024.4時点で17,000円~19,000円
(円高の影響もあり高めです)
寿命はそこそこ長い。練習するだけなら半年近く使えます。
理由は、劣化がけっこう遅いから。また、劣化しきっても弾きごこちがあまり変わらないからです。
(「オブリガートはすぐ音が劣化する」という評判をときどき耳にしますが、相当古い情報です。オブリガートは2000年代に改良されています)
一方で、値段はけっこうします。
ピラストロ弦全体でも、エヴァピラの次くらいに高いです。
オブリガートとゴールドブラカットの相性はとても良いです。
その他の特徴
◎張ってから馴染むまでがとても早い
オブリガートの馴染みかたは、全弦でもトップクラスです。
私の場合、弦を張って1~2日でチューニングが狂わなくなります。
また、張りたて特有の金属音も、早く消えます。
公式ページにも「温度と湿度に対して非常に耐性が高い」と謳われています。(同社のほかの弦にはこのような記載は少ないです)
▲E線の標準は金メッキ = 楽器を選ぶ
オブリガートのE線は金メッキです。楽器との相性次第で、音が裏返りやすくなります。
裏返ってしまう場合、通常のスチールを選ぶか、代替弦として「ゴールドブラカット」か「ヒル」を買うのがおすすめです。
ゴールドブラカットは安価で、オブリガートと音質が似ており相性がよいです。
ヒルはやや高いですが、オブリガートと同様、ガット弦のような美しい音が出ます。
とはいえ、オブリガートのE線も厚い音がして素敵です。金メッキだからと怖がらずにぜひ一度試してください。
まとめ
- 暖かく太い音色で弾いてみたい人
- 操作性もそこそこ欲しい人
- オーケストラ・室内楽奏者(特に内声)
- チューニングが安定しなくて困っている人
ネット上では、パワーのある弦がよく話題にされます。
一方、オブリガートのように暖かくほっとする弦がいい!という人も間違いなくいると思います。
そういった人はもちろん、今までソリスト向けの弦を使っていた人も、機会があればオブリガートの素敵な音色をぜひ試してみてください!