- バイオリン弦って、メーカーによる傾向はあるのかな?
バイオリン弦の有名メーカーといえば、「Pirastro – ピラストロ社」と「Thomastik – トマスティーク社」です。
ピラストロ社は、ソリスト御用達のエヴァピラッツィ、暖かいオブリガートなどが代表的です。
一方で、トマスティーク社は、世界標準のドミナント、インフェルドシリーズ、近年名を上げてきたロンドなどが有名です。
さて、本サイトの筆者2名は、バイオリンを数十年、またビオラも5年以上弾いてきました。
それぞれの楽器経験のなかで、ピラストロとトマスティークの弦の違いを感じることがよくありました。
筆者の師匠(プロオケ所属)も、メーカーによる違いを感じるそうです
この記事では、バイオリン歴35年以上・コンクール歴ありの筆者が、ピラストロ社・トマスティーク社それぞれのメーカーの特徴を紹介・レビューします。
少しコアですが、この記事を読むことで、ピラストロ弦・トマスティーク弦の違いについてのアイデアになればと思います。皆さん自身の弦選びにとってヒントになれば幸いです。
両メーカーの簡単な特徴まとめ
- 「自分のメロディーそのものの弾き方」を追求する人向け
- 発音がスマートで均一
- 運弓がなめらか
- 芯が一本通っており、オーラのある音が多い
- 「周りの音楽の中での弾き方」をよく考える人向け
- 発音するまでが重く、その分引き出しが多彩
- 運弓に手ごたえ・テクスチャーを感じる
- 芯ごと振動するような響きが多い
発音のしかた
ピラストロ・トマスティークに感じる一番の違いが、発音です。
具体的には、「弓を弦に引っかけて弾き始める瞬間」が違います。
簡単に(誤解を恐れずに)言うと、ピラストロは引っかかり方がスムーズで、トマスティークは引っかかりの抵抗が強いです。
ピラストロ弦の発音…スマートで均一
ピラストロ弦は、発音にストレスがないです。
多少乱雑に弾いてもガリッと言うことが少ないです(初心者が弾くときや、弦を替えたばかりのときは別です)。
また、弓をどのように設置しても、わりと均一な発音をしてくれます。
これは、あまり弓の返しをケアすることができない技巧的な曲において、かなりのメリットです。
速弾きにも有利です。
昨今はとくに整然とした音の並びを重視されることが多いので、ピラストロは現代の弾き方にも合った弦なのかなと思います。
トマスティーク弦の発音…重い その分引き出しが多彩
トマスティーク弦は、全体的に発音が重いです。
弓を設置して発音する瞬間に、やや強めの抵抗があります。
普段ピラストロ弦を使っている人だと、「トマスティークの弦ってちょっと引っ掛かりが強いなー」という印象があるかもしれません。
この「発音の瞬間に感じる抵抗」をうまく意識することで、発音の引き出しをピラストロ弦以上に増やすことができます。
腕の重み、指のクッション、速度など、少し変えるだけで発音を多彩に変化させることができます。
ピラストロ弦でも出来なくはないですが、これらの影響度合いはトマスティーク弦のほうが大きいと思います。
ただし、このように発音を意識して弾くのはとても難しいです。私もうまくいかないことが多いし、そもそも考えられている時が少ないです。
簡単にまとめると「重い」「時間がかかるが、そのぶん発音の引き出しが多い」のが特徴です。
一方、メーカー単位でも上記のような違いがあると筆者は思います
運弓の違い
ピラストロ弦とトマスティーク弦の2つ目の違いが、運弓のなめらかさです。
ピラストロ弦の運弓…なめらか
ピラストロ弦は、運弓がスムーズなものが多いです。
よく磨かれた感触で、理系的にいうと摩擦係数が少ないです。
トマスティーク弦の運弓…手ごたえがある
トマスティーク弦は、運弓中も風あい(テクスチャー)を感じるものが多いです。
摩擦係数が多いです。
特に、インフェルドシリーズなどはその傾向が強いです。
音のハリの違い
ピラストロ弦…音の芯がピーンと通っている
ピラストロ弦は、どの弦でも芯が一本通ったような音がします。
輪郭が伝わりやすい一方で、背伸びしたような音になりやすいという表裏一体の特徴です。
これは、暖かい弦であるオブリガートやヴィオリーノも例外ではありません。
ただし、音色がダークで暖かいため、この芯の強さをうまく隠してくれています。
トマスティーク弦のハリ…弦の芯ごと揺れるような音
トマスティーク弦は、ピラストロと比べるとブレのある音が多いです。(これは悪い意味ではありません)
たとえば、インフェルド赤やドミナントのような張力の弱い弦は、染みわたるような広がり方をします。
ロンドやピーターインフェルドのような強い弦であっても、弦の芯ごとよく振動するような音がします。
メーカー別に見たときの、相性のいい奏者
ピラストロ弦…「自分のメロディーそのものの弾き方」を追求する人に向く
これまで紹介したように、ピラストロ弦は発音がストレートで、芯の通った音が多いです。
そのため、どんなシーンでも自分の音をしっかり通せます。
自分で出している音を捉えやすいのも魅力です。芯がしっかりあるからです。
総じて、ソロや技巧派の曲だったり、メロディーそのものの弾き方を追求する人におすすめです。
トマスティーク弦…「周りの音楽の中でどう弾きたいか」を考える人に向く
トマスティーク弦は、発音に重みがあり、周りの空気ごと揺らすような音が多いです。
そのため、周囲に溶けやすく、空気に合わせて好きな温度感で弾くことができるのが魅力です。
とくに、内声を弾くうえでは、ピラストロ弦の「芯の通った音」よりも、トマスティーク弦の「揺れのある音」のほうが欲しいときが出てきます。(もちろん弦による差はありますが)
また、内声のほうがゆっくり考えて弾く時間があるため、前述した「発音の引き出し」に対してきちんと向き合うことができます。
よって、周囲の音楽に乗って弾くことを追求する人や、内声としての役割を重視する人におすすめです。
ピラストロ弦で内声を弾く人も居ていいし、魅力があると思います!
バイオリンからビオラに転向した人に顕著な特徴
筆者の、以前の師匠の言葉を紹介します。
(筆者の師匠は英国ロイヤル・フィルで内声を担当していたプロオケ奏者です)
「メロディーが弾きたいように周りが合わせる」という人はピラストロを選び、
「ベースラインや内声の枠のなかでメロディーを弾かせる」という人はトマスティークを選ぶ傾向にある
この真意ですが、「今まで自分がメロディーラインを担当していたり、メロディーをどう弾こうか悩んでいたりした人は、ビオラに行ってもピラストロを選ぶ傾向にあるんだよ。自分の出す音を捉えやすいからね」と言っていました。
まとめ
上記は、あくまでも筆者の考えです。プレイヤーごとの意見があっていいと思うし、むしろそれが自然です。
実際、筆者2人はそれぞれ好きなメーカーが異なります。
バイオリニストとして、リサイタルも多い私の友人は、ピラストロをよく使います。
一番は、こだわらず色々と試したうえで好きなメーカー・好きな弦を探すことだと思います。
以上、参考になれば幸いです!