今回は、音楽史終盤の作曲家…リヒャルト・シュトラウスの素晴らしい曲を紹介します。
リヒャルトの代名詞ともいえる曲で、ぶわっと広がる色彩・鮮やかさが特徴です。
それだけでなく、この作品はモーツァルトのオペラを目指しており、陽気で聴きやすいです。
この記事では、「ばらの騎士」のストーリー、作曲背景、組曲の聴きどころなどを紹介します。
簡単なまとめ
- 古典派・新ドイツ楽派、両方の影響を受けた作曲家
- モーツァルトの陽気なオペラを参考にした
- 激ムズ!弾くには高度な技術が必要
リヒャルトの人物像

リヒャルトはドイツの作曲家です。
1864~1949年に活躍しましたが、傑作は生涯の前半に集中しています。
音楽史でいうと、ロマン派の終わりです。
混沌とした時代で、古典派形式の限界が唱えられることもありました。
作風…「古きと新しきを結んだ鎖」
リヒャルトは、とてもリアリストで、ある意味楽天家。
そして、思い切りのよい音楽を書く人物でした。
広い音程を一気に駆け上がり、スピードの速さで空間を制圧する作風。
これが、彼の交響詩や楽劇にとてもよくマッチしています。
また、恋愛ものが多いにもかかわらず、「官能的な朗らかさ」があるのです。
この作風の由来は、大きく2つあります。
1.古典派の父親による影響

リヒャルトの父親は、腕の立つホルン奏者でした。
父親はとても職人気質で、絶対音楽の古典派を愛したのです。
一方で、新時代の音楽にはアンチともいえる否定ぶりでした。
リヒャルトは、この父親から音楽教育を受けました。
青年期になるまで、新時代の音楽に触れることもあまり許されませんでした。
そのため、同時代の作曲家に比べて古典派の影響を強く受けているのです。
2.ワーグナー、リストからの影響

この時代は、ワーグナー・リストの音楽がすさまじい影響力を持っていました。
彼らは「新ドイツ楽派」と呼ばれ、古典派の発展には限界があるとし、標題音楽を切り拓きました。
リストは交響詩、ワーグナーは楽劇において、それぞれ傑作を作りました。
リヒャルトは、はじめ父親の影響で彼らを取り入れませんでした。
しかし、音楽界でのさまざまな出会いにより、彼らの豊かな表現を参考にしはじめました。
古典派を思わせる明快な作風、一方で、新ドイツ楽派の表現力…
リヒャルトは、自分のことを「古きと新しきを結ぶ鎖」と評しました。
これが、彼の色鮮やかながら分かりやすい作風の由来です。
「ばらの騎士」の内容

モーツァルトに寄せたオペラ
ばらの騎士は、1909-1910年…リヒャルトの創作の最盛期に書かれました。
この曲の特徴は、モーツァルトに寄せたオペラであることです。
彼は数年前に、悲劇を題材にしたオペラ「サロメ」「エレクトラ」で大成功を収めました。
そして彼は、観客が次に“陽気さ”を求めることを予測しました。
そこで、古典派…モーツァルトのオペラを目指したのです。
実は、19世紀においてモーツァルトはひじょうに評価が低かったのです。
そんな中、リヒャルトは彼の5大オペラを成功させ、モーツァルティアンに転向していました。
モーツァルトの概して親しみやすい平明な作風、優美とロココのミックス…
リヒャルトは、モーツァルトのスタイルを駆使し、後期ロマン派の時代に爽風を流し込んだのです。
このため、「ばらの騎士」はのびやかで陽気な雰囲気となっているのです。
なお、今日ではオペラの上演はあまり行われません。
代わりに、ダイジェスト版ともいえる「組曲」がよく演奏されます。
組曲では、ストーリーの主な楽想が切れ目なく散りばめられています。
(組曲というより、交響詩のテイストとして楽しめる曲です!)
簡単なあらすじ
恋愛がテーマの喜劇です。
少し官能的。一方、勧善懲悪のスカッとした要素もある素敵な曲です!
ストーリーは以下のとおりです。
第一幕


※古い録音なので聴きづらいかもしれません!
陸軍元帥の夫人と、17歳の愛人オクタヴィアンが、昨夜の愛の余韻に浸っていました。
若いオクタヴィアンは情熱的に愛を語るが、夫人はどことなく上の空。
そこに、元帥夫人のいとこ…オックス男爵が訪ねて来ました。
オクタヴィアンは、小間使いの女性…マリアンデルに急いで変装します。
オックス男爵は、裕福な商人の娘…ゾフィーと先日婚約をしました。
そのため、婚約の風習として「ばらの騎士」…”結婚相手に銀のばらを届ける使者”を探していたのです。
しかし、自己中で好色な彼は、女装しているマリアンデル(オクタヴィアン)に一目ぼれ…執拗にアタックしました。
元帥夫人はこれを止めます。
しかし同時に悪戯心を起こし、ばらの騎士になんとオクタヴィアンを推薦しました。
夕刻、元帥夫人は、物思いにふけりました。
時の移ろいと、老いゆく自分に無常観を味わっていたのです。
彼女は、本来の姿で戻ってきたオクタヴィアンに対し「やがては別れる定め」と告げました。
第二幕


やがてオクタヴィアンが銀のばらを持って到着。浮遊感のある独特のテーマが流れます。
ばらの騎士の儀式が終わると、ふたりは打ち解け、話し始めます。
しかし、オクタヴィアンは自分の心に沸き起こった不思議な感情を抑えられません。
彼はゾフィーに恋してしまったのです。
そこに花婿オックス男爵が到着。
ゾフィーは、オックス男爵のあまりに無礼な振る舞いに怒ってしまいます。
ゾフィーとオクタヴィアンは心を寄せ合いますが、男爵はゾフィーを無理やり連れて帰ろうとしました。
やがて、オクタヴィアンとオックス男爵のひと悶着、そして決闘が始まります。
…が、オックス男爵は、腕にキズが付いただけで大騒ぎします。
オクタヴィアンは騒ぎを詫びて退場しますが、ある陰謀を企てます。
一方、オックス男爵はゾフィーの父親から詫びの酒を振る舞われ、機嫌を取りなおします。
そんな男爵のもとに、一通の手紙が届きました。
それは、マリアンデル(オクタヴィアン)からの逢引きの手紙だったのです。
男爵はすっかり上機嫌になり、お得意のワルツを歌います。
第三幕


マリアンデル(オクタヴィアン)と男爵が、逢引きします。
男爵は、マリアンデルとオクタヴィアンが瓜二つなことに疑問を持ちますが、口説こうとします。
しかし、オクタヴィアンが事前に仕込んでおいたホラーの仕掛けで、オックス男爵は混乱します。
さらに、金で買収された情報屋…アンニーナが現れ、男爵に棄てられた女を演じます。
慌てた男爵は警部を呼び寄せるが、逆に自らの身分を証明できず、窮地に陥ります。
そこに、ゾフィーと彼女の父親が、オクタヴィアンに呼ばれてやってきます。
ふたりは男爵の醜態に怒り、婚約は破談だと怒鳴ります。
男爵は面目丸つぶれ。オクタヴィアンの陰謀は計画どおりに行きました。
…が、まさかの元帥夫人まで登場。オクタヴィアンは慌てます。
元帥夫人はオックス男爵の身分を証明し、男爵には身を引くよう諭します。
男爵は往生際悪く抵抗しますが、結局すべてを諦めます。
そして、最後に勘定をたっぷり請求されてドタバタしながら退場します(笑)
※組曲では、このシーンの音楽がフィナーレに回ります。
ゾフィーは、オクタヴィアンと元帥夫人の仲を察しますが、元帥夫人がこれをなだめます。
自分は身を退き、若いふたりを結びつけることにしたのです。
3人の想いを込めた三重唱が歌われます。
父親にも祝福され、互いの愛を確かめるふたり。
幸福感に満たされたふたりは、今ひとたび二重唱を歌い、エンディングとなります。
バイオリン弾きの視点
※組曲の内容に基づきます。
この曲はとても華やかで官能的。また動きがあって楽しいです!
ただし、難易度としては激ムズです…(笑)
高音-低音の幅の広さ。臨時記号の多さ。そしてスピード感。
ドンファンほどではありませんが、相当な基礎技術が求められます。
さらに難しいのが「沈まないように演奏する」ことです。
この曲は編成が大きいうえに明確な拍が刻まれないため、テンポロスになりがちです。
しかし、この曲はモーツァルトを目指して作られた陽気なオペラです。
また、リヒャルト自身の作風も、鮮やかさとスピード感がウリです。
そのため、同時代の作曲家とはちがう「勢い」があったほうが素敵です。
周りの音や指揮者の振りからテンポを感じ、自分で信じて弾く必要があります。
(※この辺りは解釈の違いもあると思います!)
まとめ
- 古典派・新ドイツ楽派、両方の影響を受けた作曲家
- モーツァルトの陽気なオペラを参考にした
- 激ムズ!弾くには高度な技術が必要
「ばらの騎士」は、ロマン派時代の最後の”夢芝居”ともいえる曲です。
ポスト・ワーグナーから無調へとなだれこむ、音楽文化の一大転換期…
そんな時代に、ひとつの爽やかな風を吹かせた曲です。
オペラ・組曲ともに、聴く機会(弾く機会)があれば、ぜひその煌めきを味わってください!