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【解説】サン=サーンス「死の舞踏」|真夜中に踊る骸の交響詩

真夜中、墓場で骸骨たちが踊り出す——

「死の舞踏」は、フランスの作曲家サンサーンスが手がけた、7分ほどの短い交響詩です。

演奏時間こそ短いものの、鮮烈な音の情景が広がるこの作品。
E線を半音下げたバイオリンソロや、木琴で表現された「骨の音」など、色彩豊かな工夫が随所にあります。

筆者
コンマスが独奏を掛け持つことも。
2台のバイオリンを持ち替える場面が見られるかもしれません!

この記事では、バイオリン歴35年以上の筆者が、
元になった詩の内容から作曲背景、そして聴きどころまでをわかりやすく解説していきます。

  • 「死の舞踏」のもととなった詩とは?
  • 当時の作曲背景
  • 曲の魅力と聴きどころ

「死の舞踏」はどんな曲?元の詩も紹介!

「死の舞踏(Danse macabre)」は、真夜中の墓場で骸骨たちが踊り出すという不気味な情景を描いています。

元になったのは、19世紀フランスの詩人アンリ・カザリスによる幻想詩。

12時の鐘とともに「死」が現れ、骸骨たちが踊り始め、夜明けとともに墓へ帰っていくという筋書きです。

サンサーンスはこの詩をもとに、ユーモアと死の風刺を織り交ぜた音楽を作り上げました。

以下に、その詩の全編を日本語訳でご紹介します。

🪦アンリ・カザリスの詩『死の舞踏』から

ジグ、ジグ、ジグ。

踵で拍子を取りながら、死は叩く墓の石。

死が真夜中に弾く踊りの調べ。

ジグ、ジグ、ジグと、ヴィオロンで。

冬の風は叫び、夜は暗い。

菩提樹から高まる呻きごえ。

青白い骸骨が暗闇をよこぎり、 大きな経帷子をまとって走りおどる。

ジグ、ジグ、ジグ。人はみな震えおののこう、踊り手たちの骨のかち合う音さえ聴けば。

しっ!

突然踊りはやみ、彼らは押し合い逃げてゆく、 暁の鶏が鳴いたのだ。

サンサーンスと時代背景

「死の舞踏」が作曲されたのは1874年。ロマン派を代表する交響詩のひとつです。

サンサーンスは、フランツ・リストの交響詩に強い感銘を受けていました。

そして、自らもそのスタイルに倣って交響詩という新たなジャンルに挑戦しました。
「死の舞踏」は、サンサーンスが手がけた4つの交響詩のうちのひとつなのです。

 
筆者
彼はシューマンやワーグナーにも憧れていたそうです!

一方、サンサーンスの作品は、フランス国内では賛否両論の嵐でした。

ドイツでは主流だった器楽に対して、フランスではオペラなどの声楽作品が好まれていたのです。
さらに、普仏戦争後の反ドイツ感情も影響していました。

しかし国外、特にイギリスでは高く評価され、「フランスのベートーヴェン」とまで称賛されました。

ちなみに、彼自身はこうした中でも飄々と創作を続け、
とても頭脳明晰、ある意味リアリストな人物だったと言われています。

 
筆者
当時のフランスでは珍しく、器楽で名を馳せた作曲家でもあります!
  • アンリ・カザルスの詩に着想を受けて作られた
  • リストの交響詩に感銘を受けていた
  • 国内の論争に流されることなく、飄々と創作をした人物だった

聴きどころ解説|音で描かれる死の踊り

序奏|墓場に訪れる真夜中の調べ

古い音源なので聴きづらいかもしれません!(以下同様)

曲は、ハープによる12回の音から始まります。

これは真夜中12時の鐘の音を表しており、「墓場の真夜中」が幕を開ける瞬間です。

続いて登場するのが、半音下げたE線のソロバイオリン
これは、死の舞踏そのもの。不安定で不気味な音色によって、聴き手を非日常の世界へと誘います。

筆者
いきなりE線がやばい状態で弾き狂うから
初めてだとちょっと引くかも…笑

主部|2つの主題、描写の工夫

主部では、性格の異なる2つの主題が登場します。

第1主題は、骸骨たちが踊る軽快なジグ(6/8拍子)の旋律。

フルートによって提示され、その後さまざまな楽器に受け継がれていきます。

この主題には、「怒りの日(Dies irae)」の旋律がもとになっているという説もあります。

第2主題は、夜の墓場を思わせるような、重い幽玄な旋律

第1主題と対照的に描かれています。

これら2つの主題が交互に現れ、組み合わされることで、
曲は幻想的な雰囲気と緊張感を高めていきます。

さらに特筆すべきは、当時としては非常に珍しかった木琴の起用
骨の擦れる音を再現し、聴き手にはさらなる非日常感を味わせているのです。

クライマックス、静かな終結

曲が進むにつれて、音楽は次第に熱を帯び、テンポも速度を上げていきます。
2つの主題が絡み合い、転調も起こる中で、骸骨たちの狂騒は最高潮に達します。

しかし、その熱狂は突如として終わりを迎えます。

突如静寂のなかで、オーボエのソロが響きます。

これは、暁の鶏の鳴き声

弦楽器のトリルにより、骸骨たちが慌てて墓へと帰っていきます。

やがて、夜明けとともに幻想の幕が閉じられるのです。

まとめ|短くも印象に残る標題音楽の名作

「死の舞踏」は、詩に基づいたちょっと不気味な物語

そして、色彩豊かなオーケストレーションが魅力の交響詩です。

7分という短さながら、恐怖・ユーモアが詰まった密度の高さ。

聴くだけで映像が浮かぶような音楽です。

ぜひ機会があれば味わってみてください!

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