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【解説】チャイコフスキー《弦楽セレナーデ》|美しさの裏にある“純粋な想い”

「あ、あの番組のテーマ曲だ!」
そう思った方も、多いのではないでしょうか。

チャイコフスキーの《弦楽セレナーデ》。
高貴で華やかな響きが、今も多くの人を惹きつけています。

でもこの曲、ただ美しいだけじゃないのです。
裏に秘められたのは、“古典派”モーツァルトへの憧れ。
そして、誰に頼まれたわけでもない、彼自身の“内なる衝動”から生まれた音楽です。

筆者
“自分の心”から生まれた、特別な曲なのです!

本記事では、バイオリン歴35年以上の筆者が、
弦楽セレナーデ(セレナード)の背景から聴きどころ、演奏面での魅力を解説します。

  • この曲に込めた想いと特徴
  • 各楽章の聴きどころ
  • 演奏者から見た”弦セレ”の奥深さ

この曲はどうやって作られた?

モーツァルトの敬愛から生まれた

チャイコフスキーは《弦楽セレナーデ》を、敬愛するモーツァルトへの想いから生み出しました。
なぜか?
——それは、彼がこの時期に追い求めたのが、純粋な形式美だったからです。

当時のチャイコフスキーは、クラシック音楽が「効果重視になりすぎている」と感じていました。
彼に依頼される曲も多くが派手さを求められていました。
その反動として彼は、モーツァルトのような構造美・節度ある美しさを追求したのです。

 
筆者
この数年後には《モーツァルティアーナ》も書いているんです!
本曲は、序奏だけパッと聞くと表面的な華やかさが先行しますが…
曲全体としては実に整っており、じっくり聴きたい構造になっているのです。

純粋な意志で書かれた!

この曲は、チャイコフスキーが自ら進んで作曲しています。
誰かの依頼で書かれたわけではありません。
本人の言葉を借りれば「内面的な衝動によって生まれた、真に芸術的な作品」
同時期に書かれた《1812年》とはまったく対照的な位置づけです。

  • 《1812年》:大砲などによる外面的効果を狙った作品

  • 《弦楽セレナーデ》:彼の中の芸術的価値を求めた音楽

このセレナーデはまさに、
「古典派への回帰」と「純粋な芸術」への答えだったのです。

最初は組曲や交響曲の構想だった?

実は《弦楽セレナーデ》は、最初から「弦楽合奏」と決まっていたわけではありません。
チャイコフスキー自身も、作品の方向性に迷っていたことがわかっています。

彼は支援者メック夫人への手紙で、このように語っています。

「交響曲か組曲のような作品を書きたいが、どちらにするか決めかねている。」
 
筆者
当時は、交響曲を書く気力がまだ足りないと悩んでいたそうです

そのため、交響曲と組曲の“ちょうど中間”を狙ったような形で、
弦楽合奏によるセレナーデという形式に落ち着いたのだと考えられます。
曲全体が建造物のようにしっかりしているのは、こういった経緯があったからでしょう。

形式に迷いながらも、チャイコフスキーはこの作品を通じて、
“自分が本当に書きたかった音楽”の形を探っていたのかもしれません。

  • 彼は、外面的な音楽に批判的になっていた
  • 《弦セレ》は、彼自身の内面から生まれた純粋な構造美の音楽!
  • はじめは交響曲や組曲のアイデアもあった!

各楽章の魅力を解説!

第1楽章|凝縮された華麗さ

古い音源なので聴きづらいかもしれません!(以下同様)

(序奏)

(主部)

冒頭は、力強く高貴な序奏から始まります。
よく知られる“あのフレーズ”は、序章として登場します。

主部では、スイングするリズムとスタッカートが心地よく響きます。
展開部を省いたシンプルな構成で、流れるように終盤へ向かいます。

 
筆者
主題のスタッカート、弾いていてもクセになります!
(けっこう難しいけど)

この楽章は、モーツァルトの様式の意識的模倣をしていたそう。
気品を漂わせつつ、情感と推進力も凝縮している音楽です。

第2楽章|珍しい“ワルツ”

4楽章構成では珍しく、優雅なワルツが置かれています。
軽やかで気品ある旋律が、華やかな空気を作り出します。

単独でも演奏されることが多く、この曲の中でも特に親しまれている楽章です。

筆者
チャイコフスキーはワルツを取り入れることを好みました!

第3楽章|明暗をたゆたうエレジー

長調なのですが、「エレジー」の如く哀しさも感じさせる不思議な響き。
弦楽だけでここまでの深さを表現できるのかと驚かされます。

3連符のリズムに乗って、さまざまな声部で綺麗な歌が奏されます。

中間部ではモルトカンタービレによる美しい旋律が登場し、
楽章全体に静かな情熱が広がっていきます。

第4楽章|民謡風の快活なフィナーレ

冒頭は穏やかな序奏ですが、すぐに快活な主部が始まります。

この楽章は、ロシア民謡をふんだんに用いています。
序奏は、「なんと緑の牧場のことよ!」という民謡。
そして主部は、「青いリンゴの木の下で」という民謡から引用されています。

 
筆者
どこか郷愁もあって、胸に残りますね…!
終盤ではなんと第1楽章の序奏が再登場。構成全体に統一感が生まれます。
その雰囲気のまま、堂々と曲を閉じます。

奏者から見た”難しさ”

アマチュアの方が弾くことを想定しています。

この曲は、奏者には一筋縄ではいかない曲です。

なんといっても難しいのが「ハーモニー」。
冒頭の序奏に代表されます。
よけいな装飾が少ないため、“和音を響かせる能力”が求められます。

 
筆者
ついバイオリンが主導権を握りがちですが、
実はチェロバスこそ重要です…!

一方で、チャイコらしい「叙情さ・メランコリックさ」も健在。
時には感情を込めるようなグルーヴ感も必要です。

彼自身はモーツァルトを目指したと言いつつ、個性も際立つ曲。
奏者としても、「基本」を押さえつつ思い切りも必要…
かなりやり応えのある曲なのです!

筆者
技術的な難易度も結構高いです…(苦笑)

まとめ

  • “モーツァルト”を目指し、彼の内面から生まれた名曲
  • 交響曲の跡も見られる4楽章の構造美
  • 自身の個性…ワルツや民謡要素も盛り込まれている!

チャイコフスキー《弦楽セレナーデ》は、
華やかさの裏に“モーツァルトへの敬意”と“純粋な想い”が込められた名曲です。

誰かのためではなく、自分自身の内側から生まれた音楽。

第2楽章の優雅なワルツや、第3楽章の静かな哀しみ。
そして民謡を織り込んだ終楽章の快活さ——。
4つの楽章を通して、チャイコフスキーの“真の姿”が見えてきます。

筆者
弾くたびに「こんなに深い曲だったのか」と感じさせられます!

聴く人にも、奏でる人にも、多くの発見をくれる《弦楽セレナーデ》
ぜひ一度、全曲通してじっくり味わってみてください。

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