【初期ながら高い完成度!】ベートーヴェン/弦楽四重奏曲第1~6番 解説

  • ベートーヴェンが好きなのだけれど、おすすめの曲はある?
  • 初めてでも取り組みやすいカルテット作品はないかな?

ベートーヴェンの弦楽四重奏曲は全部で16曲あり、うち1~6番は初期作品といわれます。

初期作品といえど、これら6曲は素晴らしい仕上がりとなっています。彼はほかの作曲家と比べて、十分な実力を付けてから弦楽四重奏曲に取り掛かったためです。

ですので、これらの作品を聴き比べるのも楽しいですし、初めてカルテットを弾く人にもおすすめです。

 
筆者

私も、初めて取り組んだ弦楽四重奏曲はベートーヴェンでした!

この記事では、バイオリン歴35年以上・ビオラ歴ありの筆者が、ベートーヴェンの初期弦楽四重奏曲について解説します。

この記事を読むと、第1~6番の作曲背景、各楽章の特徴や、難易度が分かります。

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簡単な概要まとめ

  • 弦楽四重奏曲に対する想いが非常に強かった
  • ハイドンの作曲技法をベースとした、基本に忠実な作り
  • ウィーンでのデビューを果たし、順風満帆な頃だった
  • 作曲中に、難聴が急激に進行していく

作曲背景

弦楽四重奏曲に対する想いが非常に強かった

弦楽四重奏曲第1~6番は、1798~1799年に作曲され、1801年に出版されました。

実は、当時の作曲家たちは、出版番号1の作品として弦楽四重奏曲を作曲することが多かったのです。

しかし、ベートーヴェンは、弦楽四重奏曲の出版には非常に慎重でした。

その理由は、ハイドン・モーツァルトという先駆者がいて、彼らに匹敵する曲を出すには十分な勉強が必要と感じていたからです。

ベートーヴェンは、モーツァルトの「ハイドンセット」と言われる弦楽四重奏曲第14番、第18番や、ディヴェルティメントなどを繰り返し筆写して研究を重ねました。

また、ベートーヴェン自身も宮廷管弦楽団や歌劇場のビオラ奏者として働き、弦楽器への造詣を深めていきました。

最終的に彼が弦楽四重奏曲を書き始めたのは、作曲家の目標ともいわれる「交響曲」第1番の作曲と同じころです。

したがって、彼の弦楽四重奏曲は、初期でも非常に完成度の高いものになっています。

ハイドンの作曲技法をベースとした、基本に忠実な作り

ベートーヴェンは、円熟期以降のハイドンと同じ時代を生きました。

彼はハイドンのことを当初とても尊敬しており、1790年代に弟子入りして作曲技法を学びました。

弟子入りしていた間、ハイドンからの課題に対して書き上げた曲は実に400曲以上と言われています。

また、ハイドン自身の作品も筆写して研究を重ねました。

そのため、彼の作品はハイドンをベースとしたとても基本にていねいな作りとなっています。

ただし、ハイドンは師匠としての面倒見がさほど良くなかったと言われており、彼らの関係性は徐々に薄くなっていったそうです。

ウィーンでのデビューを果たし、順風満帆な頃だった

この頃、ベートーヴェンはウィーンでピアニスト・作曲家両方として認められ始めました。

ピアニストとしては、1795年に初めての単独演奏会を開催し、大成功を収めました。
そのまま、プラハ、ドレスデン、ライプツィヒで演奏旅行も行っています。

また、作曲家としても後援者(=パトロン)が付き始め、宮廷などに雇われなくても生計を立てやすくなりました。

したがって、弦楽四重奏曲第1~6番が作られたのは、ベートーヴェンが音楽家としての順風満帆な生活を送り始めた頃だと言ってもよいでしょう。

作曲中に、難聴が急激に進行していった

ベートーヴェンは、耳が聞こえない作曲家として有名です。

彼が難聴を自覚し始めたのは1798年。

そこから症状が急激に悪化し、1800年には音が鳴ったことすらほとんど分からない状態だったと言われています。

これらは、ちょうど弦楽四重奏曲の作曲時期と重なります。

実際、後半に作られた弦楽四重奏曲第4番や第6番では、暗く衝動的なシーンがよく見受けられます。
このため、「彼の難聴によるメンタリティの揺れやストレスが曲調に表れている」としている文献も多いです。筆者自身もそのように思いました。

  • 初期作品であっても十分に研究されて作曲された
  • ハイドンの作曲技法の影響を大きく受けた
  • ウィーンでのデビューを終えて順風満帆な音楽生活だった
  • 難聴によるストレスが影響を与えた曲もある

各曲の特徴

弦楽四重奏曲の作曲順は、出版番号通りではありません。

初期作品は、3→1→2→5→6→4の順に作られました。

弦楽四重奏曲第1番

第1番は、2番目に作られた作品です。

この曲は、実兄を亡くした親友に向け、励ましを込めて書かれた曲です。

そのため、全体的に明るい曲・・・ですが、2楽章だけとても悲哀な表情を見せます。
2楽章のスケッチには「墓場への斜面-絶望-命を絶つ-最後のため息-」と書かれてあります。

 
筆者
演奏者としてもこの2楽章の組み立てが一番大変です。
言い換えると聴きがいがあります!

弦楽四重奏曲第2番

第2番は、3番目に作られた作品です。

とても優雅な曲です。後の作品に出てくるような不穏さや、衝動的なシーンはあまり見られません。

あまり知られていませんが、「挨拶」という副題があります。

弦楽四重奏曲第3番

第3番は、最初に作られた作品です。

全編通して、とても新鮮で伸びやか。

ウィーンで活躍する青年の明るい希望が描かれたようです。

第3番は、単独で記事を書いたので、よろしければご覧ください(被っている部分もあるかもしれませんが)。

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弦楽四重奏曲第4番

第4番は、初期のなかで最後に作られた作品です。

全体的に暗く、衝動的に進みます。
先述したように、難聴の絶望ともいえる感情が感じられます。
sf・・・スフォルツァンドの使用が非常に多いです。

また、2楽章にフーガ形式を取り入れたり、転調が相次いだりと、技法の熟した曲です。

第4番も単独で記事があるので、よろしければご覧ください。

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弦楽四重奏曲第5番

第5番は、4番目に作られた作品です。

さきの第2番同様に優雅な曲です。

出番的には、こちらのほうが低弦のメロディーが多いので、演奏者としてはやりがいがあるかもしれません。

また、3楽章は約10分間にわたる変奏曲風です。とても変化に富んでおり、この作品の目玉です。
初期作品でありながら変奏曲が出てくるのはすごいですよね。
この後、彼の弦楽四重奏曲に変奏曲が出てくるのは、第10番。だいぶ後世になります。

弦楽四重奏曲第6番

第6番は、5番目に作られた作品です。

作曲順が後半で、作品番号をあえて最後にしていることもあり、後の交響曲・弦楽四重奏曲につながるような完成度の高さです。

第4楽章は、のちの「ラズモフスキー第3番」を思わるよう。
シリアスな序奏からの晴れやかな終楽章です。

 
筆者
演奏者としては結構忙しく、同時にやりがいがある曲です!

演奏難易度(バイオリン)

※1stバイオリン、2ndバイオリンを基準としています。
 なお、アマチュアの人が休日や部活動で弾くことを想定しています。

結論、ある程度の技術力さえあれば、初めて結成したチームにもおすすめです。

理由は、古典派よりも技巧的だが、全体の作りは基本に忠実だからです。

  • あまり曲作りに慣れていなければ、第3番をおすすめします。
    スコアがとてもすっきりしています。
    出番も全員そこそこあるため、飽きないでしょう。
  • 腕に自信があるなら、第4番第6番がおすすめです。
    第4番は非常にキャッチーで聴き映えします。演奏者としてもやりがいがあります。
    第6番も同様に楽しいです。
筆者
筆者が初めて弾いた作品は第4番でした!

まとめ

  • 初期作品であっても十分に研究されて作曲された
  • ハイドンの作曲技法にもとづいた、基本に忠実な作り
  • ある程度の技術力があれば、初めてのチームにもおすすめ

ベートーヴェンというと、交響曲(第九や運命など)が注目されがちですが、実は室内楽にも素敵な曲がたくさんあります。

聞き手としてはもちろん、弾き手としても、ぜひチャレンジしてみてください!

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