- ベートーヴェンの弦楽四重奏って、どれから聴けばいい?
- はじめての人におすすめはある?
彼が作った弦楽四重奏は全16曲。
はじめて聴く方には、少しハードルが高く感じるかもしれません。
でもご安心を。
はじめてでも親しみやすく、個性も光る名曲があります!
彼らしいドラマチックな曲から、香り高い一曲まで。
中には、たった20分の超名曲もあります!

今回は、歴35年以上のバイオリン・ビオラ弾きが、
初めてにおすすめの名曲を4つ厳選してご紹介します。
クラシックに詳しくない方でも、きっと彼の魅力を味わえるはず!
まずはこのアツい1曲から――
弦楽四重奏曲第4番

分かりやすくてアツい!初期の名曲
※古い音源なので聴きづらいかもしれません!(以下同様)
まずご紹介するのは、《弦楽四重奏曲第4番 Op.18》。
ベートーヴェンの初期作品集の一つです。
この曲の最大の特徴は、その“アツさ”。
初期とは思えないほどのドラマチックさが魅力です。
この時期は、ベートーヴェンの難聴が急激に悪化した頃でした。
1800年に曲が完成したときは、音が鳴ったこともほぼ分からなかったと言われています。
もしかしたら、そんな彼の精神状態を表しているのかもしれません。
形式美と情熱、両方が味わえる!

とはいえ、ただ情熱的なだけではありません。
この作品には、当時の師:ハイドンの影響を感じさせる、整った形式美もあります。
4つの楽章のバランスの良さや、聴きやすさもおすすめの理由です。

構築美も光ります!
“ドラマチックだけど、聴きやすい!”
初めての方にとって、まさに理想的な一曲です。
弦楽四重奏曲第9番《ラズモフスキー3番》

これぞ王道ベートーヴェン!
次にご紹介するのは、弦楽四重奏曲第9番《ラズモフスキー第3番》。
ベートーヴェンの代表作のひとつです。
第7〜9番は「ラズモフスキー三部作」と呼ばれています。
これは、ウィーン駐在のロシア大使:ラズモフスキー伯爵の依頼で書かれたことに由来します。
いずれも規模が大きく、内容も濃密。
まさに“中期ベートーヴェン”の真骨頂といえるシリーズです。

雷に打たれるような序奏から始まる、力強い第一楽章。
終楽章の圧倒的なフーガ。
スケールの大きさと構築美が同居した、聴きごたえ抜群の一曲です。
「傑作の森」の充実期

ラズモ三部作は、交響曲《運命》や《田園》と同時期に作られました。
このころのベートーヴェンは“傑作の森”とも呼ばれる創作の絶頂期にあり、
四重奏にも、その豊かな表現力と実験精神が惜しみなく注がれています。
↑終楽章に取り入れられた高速フーガは、まるで追いかけっこのように主題が絡み合い、
演奏者にとっても緊張感の高まる場面。
聴いている側も手に汗握るスリルがあり、ラストまで目が離せません。
弦楽四重奏曲第11番《セリオーソ》

わずか20分!超引き締まった一曲
次にご紹介するのは、弦楽四重奏曲第11番《セリオーソ》。
その名の通り、厳しく引き締まった雰囲気が全体を覆う作品です。
演奏時間は、たったの20分ほど。
1楽章に至っては、わずか3分しかありません。

中身は非常に濃密で、無駄な装飾や甘さは一切なし。
音楽の「本質」だけを切り出したような、真剣勝負の一曲です。
実は、彼のラズモ三部作や《運命》は、あまりに壮大すぎて当時は不評だったのです。
《セリオーソ》は、ぐっとスケールを抑え、内省化した時期の曲。
だからこんなに厳しく詰まった音楽になっているのです。
実はめちゃくちゃ深い
この作品は、実はベートーヴェン自身が「専門家のための曲」と語っていたほど。
「公衆の前で演奏すべきではない」とまで書き残した記録もあります。
確かに、音の運びや和声の進行は非常に緻密。
正直、演奏難易度もかなり高い一作です(汗)


ですが、だからこそ――
何度も聴き返すうちに、深い構造や心の機微が見えてくる曲でもあります。
クラシックに慣れてきた頃に改めて聴くと、その凄さがより実感できるはずです!
弦楽四重奏曲第10番《ハープ》

特徴的なピチカートと、柔らかく香る響き
次にご紹介するのは、弦楽四重奏曲第10番《ハープ》。
副題《ハープ》の由来は、第1楽章に登場する印象的なピチカートにあります。
Es-dur(変ホ長調)という、少し奥行きのある調性。
曲全体にも、どこか内面的で香り高い雰囲気が漂っています。
これまでの様々な技法が味わえる!

この《ハープ》も、“傑作の森”の作品。
それまでに試みてきた構成法や対位法、主題の展開技術などが自然に織り込まれ、
まさに「技法の結晶」ともいえる完成度を誇ります。
たとえば第3楽章では、《運命》を思わせる4つの音のアイデンティティが登場。
第4楽章は、《英雄》交響曲から活かされた変奏曲のような構成。
さらに、楽章間をつなぐ“アタッカ”の手法——これは《田園》でも用いられています。

慣れた人にはこの曲もおすすめ!
「第九の後の世界」弦楽四重奏曲第12番
慣れてきた方には、ぜひ彼の後期作品を知ってほしい——
番外編として、弦楽四重奏曲第12番をおすすめします。
この作品は、交響曲第9番の後に書かれた四重奏曲。
壮大な交響曲を書き終えた後の静かな内省が、曲全体に感じられます。
後期の幕開けにふさわしい、堂々たる主和音。
この後に紡がれるのは、鳥のように自由な旋律と、音の神殿のように緻密な和声。
まさに“悟り”ともいえる境地の音楽を楽しめます!
まとめ|あなたの”推し”四重奏をぜひ見つけよう!
「ベートーヴェンの四重奏はどれがおすすめ?」
今回は、そんな方におすすめできる4曲(+1)を紹介しました。
- 🔥 第4番:暗闇を疾走するようなドラマ
- 🏰 第9番《ラズモフスキー》:王道の代表作
- 🌌 第11番《セリオーソ》:短い、真剣勝負の一曲
- 🪻 第10番《ハープ》:香り立つような優美さ
- 🌄 第12番:第九の後の、深い内省の世界
交響曲よりも小編成だからこそ、ベートーヴェンの心の声がより近くに感じられます。
ぜひ、今回の中からあなたの“推し”四重奏を見つけてみてください。

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