華やかで端正、モーツァルトの隠れた傑作!
モーツァルトの交響曲第36番「リンツ」は、知る人ぞ知る彼の名曲のひとつです。
この曲が書かれたのは1783年秋。
たまたま立ち寄った地方都市リンツでの依頼をきっかけに作られた曲です。
彼らしい豊かなアイデアと、整った構成力が魅力の音楽です!

本記事では、バイオリン歴35年以上の筆者が、
「リンツ」の作曲背景、聴きどころや魅力を解説します。
- この曲が生まれた背景
- 華やかで楽しい曲調の由来
- 各楽章の聴きどころと魅力!
この曲はどのように生まれた?|リンツ滞在と家族の出来事

「リンツ」が生まれたのは、1783年の秋。
モーツァルトはこの年、結婚したばかりの妻コンスタンツェとともに、故郷ザルツブルクへ里帰りしていました。
帰路、彼らはオーストリア中部の地方都市リンツに立ち寄りました。

滞在したのは、地元の貴族トゥーン・ホーエンシュタイン伯爵の屋敷「フライハウス」。
そして伯爵の依頼で、新しい交響曲を披露することになりました。
彼は、わずか4〜5日でこの交響曲を書き上げたと言われています。
(ただし、このエピソードに確たる証拠はなく、あくまで伝承的な逸話です)

なお、この旅はモーツァルトにとって、私生活でも大きな転機となりました。
このとき生まれたばかりの息子は、残念ながらまもなく腸閉塞で亡くなってしまいます。
また、彼が故郷ザルツブルクを訪れたのは、このときが最後となりました。
「リンツ」の背後には、華やかさと別れの交錯があったのです。
作品全体の特徴|瑞々しさ、工夫の連続!

「リンツ」は、華やかさと瑞々しさを兼ね備えたモーツァルトらしい傑作です。
そして、急ごしらえとは思えないほどの豊かな発想に満ちています。
例えば、第1楽章の序奏。
この曲の主調、ハ長調(C-dur)で始まると思いきや、いきなり短調の響きでの始まり。
平行調であるイ短調(a-moll)の和音が鳴ることで、ぐっとドラマが生まれます。
さらに、第2楽章では、ゆったりとした6/8拍子のシチリアーノ風リズムを採用。
しかも、当時は珍しかったティンパニとトランペットが全編を通して休まず使われており、
柔らかな楽章にアクセントと張りを加えています。
また、譜面上の工夫も随所に。
第3楽章には、拍子感が揺れるヘミオラの要素が見られ、
第4楽章では弱音→強奏→全Tuttiと、場面展開を演出しています。

こうした工夫が、全4楽章を通して飽きさせない要因になっているのです。
- 地方都市リンツでの即興作曲
- 人生の華やかさと別れ
- 驚きのアイデアの連続!
各楽章の内容、聴きどころを紹介!
第1楽章:Adagio – Allegro spiritoso

※古い音源なので聴きづらいかもしれません!(以下同様)
堂々たる序奏で始まる、重厚な第1楽章。
モーツァルトの交響曲では珍しい序奏付きで、冒頭から短調の和音が響くなど、意外性たっぷりの導入です。
アレグロ部分は、その名の通り快活で勢いのある音楽。
細かく詰まったリズムが特徴的で、演奏者にとっては発音の明瞭さが問われます。
途中で突然、バイオリンがイ短調(e-moll)の主題を挟む場面もあり、展開の妙が光ります。
第2楽章:Andante

6/8拍子の柔らかなリズムで進む、シチリアーノ風の緩徐楽章。
ゆったりとたゆたうような雰囲気が心地よく、穏やかなひとときを演出します。
ここでも注目すべきは、トランペットやティンパニの使い方。
当時の緩徐楽章では異例。旋律の隙間を埋めたり、アクセントを加えたりと、音のスケールを広げているんです!
第3楽章:Menuetto – Trio

きりっと踏み込むようなリズムが印象的なメヌエット。
まるで舞踏会のような気品があります。
拍感にズレを生じさせるヘミオラ的な要素もあり、
リズムの面白さや揺らぎを感じることができます。
トリオとのコントラストも明快で、古典派らしい形式美が光ります。
第4楽章:Presto

スピード感とアイデアに満ちた終楽章。
弱音→強奏→全楽器Tuttiと、編成を巧みに切り替えることで、めくるめく展開を生んでいます。
ちなみに、演奏者としてはテンポの速さと細やかなリズムで、アンサンブルが乱れやすいです…!
気を付けなければいけない楽章です!
まとめ|即興とは思えないアイデアの宝庫!
交響曲「リンツ」は、モーツァルトが急遽作曲したとは思えない完成度を誇る、まさに隠れた名作です。
- 華やかさと瑞々しさを兼ね備えた音楽
- ハ長調の枠に収まらない調性の妙
- 飽きさせないアイデアの連続!
こうした魅力が、全4楽章にぎゅっと詰め込まれています。

あまり注目される機会の多くないこの交響曲ですが、
ぜひ一度、時代背景にも思いを馳せながら、じっくり聴いてみてください!
🎵 あわせて読みたい関連記事
- モーツァルトの室内楽を知る
【解説】モーツァルト 弦楽四重奏曲《狩》|晴れやかに駆け出す躍動の四重奏
ハイドンと出会い、さらなる進化を遂げた彼の名弦楽四重奏曲です。 - 時代の進化を体感する
【解説】ベートーヴェン 交響曲第5番《運命》|歴史を変えた音楽革命!
それまでの音楽に革命を起こした交響曲。4つの音の狙いとは?